●ヒトは歴史が浅く、地球上では新種の生命である
今回は、「最近の生命科学の現状と課題」をテーマに、大きく分けて3つの話をします。
1つ目に、私たちヒトが地球上でどのような立ち位置にいるか、それを考えてみます。それから2つ目に、私の研究を通して、再生科学がどのようなものであるかを述べます。そして3つ目に、それまでの話を通して、今後の生命科学と次世代へのメッセージをお話しできたらと思います。
まず最初に、私たちヒトの地球上における立ち位置について、話をしてみたいと思います。
生命誕生を36億年前あるいは38億年前とすると、生命はそれだけ長い歴史を持っています。その生命の歴史は、単細胞生物から始まって、バクテリアやいろいろな植物、あるいは下等動物、そしてわれわれ人類と進み、その後にヒトが出てきます。
38億年の生命の歴史を仮に24時間として計算すると、人類が出現したのは30秒前であり、私たちヒトが存在するのは1秒以下なのです。ヒトは20万年前に生まれたといわれますが、生命の歴史を24時間とすると1秒に満たず、私たちヒトは地球上では新種であると理解しておくことが必要です。
このことはどのような意味を持つのでしょうか。地球上にいる多くの生物はそれぞれに、自分たちが歩いてきたヒストリー、つまりナチュラルヒストリーを持っています。その観点から見ると、私たちヒトは、まだほとんどヒストリーを持っていないということになります。
私は長いこと、イモリを採取したり実験に使ったりしていますが、彼らは3億年前に出現しており、3億年の歴史を持っているということです。そう考えると、彼らに学ぶこともたくさんあると思います。地球上には本当にいろいろな生物がいます。単細胞から多細胞になり、植物がでてきます。そして、それを食べている動物がおり、動物の中にも、哺乳動物などいろいろなものがいます。こういうように、多種多様な生物がいるわけです。
●ヒトのヒストリーの展開においては産業革命が大きな契機となってきた
では、ヒトのヒストリーはどのように進んできたのでしょうか。われわれヒトが生まれたのは、20万年前のアフリカの東端だといわれています。20万年前に、人類からホモ・サピエンス、つまりヒトが生まれたのです。そして世界中に広がっていきました。その後の長い間、ヒトは、農業や狩猟を中心とする生活をしてきました。その間には、世界の人口はほとんど増えていません。大体3,000~4,000万人といわれています。
転機となるのは、18世紀にいわゆる産業革命が始まったことです。この産業革命は、ヒトに非常に大きな影響を与えました。ヒトが養うことのできる人口が爆発的に増えていき、実際の人口も爆発的に増えていきました。それと同時に、このようにヒトの人口が増えたことによって、環境的にみれば、CO2つまり炭酸ガスも増えていきました。つまり、ヒトの増え方と地球上での炭酸ガスの増え方がよく似ているということです。
では、この産業革命とはどのようなものであったのでしょうか。これは、18世紀半ばにイギリスで起こったことですが、蒸気機関車に代表されるように、石炭を使うようになります。そしてその後、第二次産業革命が起こります。これは石油を使って、いわゆる重工業や化学工業が起こります。そして、第三次産業革命は20世紀前半から20世紀後半に起こり、自動化やオートメイション化が行われ、そして新しいエネルギーとしては原子力エネルギーが出てきます。
現在は、第四次産業革命の時代だといわれています。20世紀後半から現在に続くこの第四次産業革命は、情報化がキーワードであり、IoTや、AIつまり人工知能などが登場しました。それから、新しいエネルギーについていえば、再生可能エネルギーが出てきました。
このように見ていくと、産業革命には、エネルギーという一つの大きなキーワードがあります。新しいエネルギーを利用することによって、われわれは大きく、社会構造やヒトのあり方を変えてきました。先ほど申し上げたように、第一次産業革命は石炭、第二次産業革命は石油、第三次産業革命は原子力、そして第四次産業革命はいわゆる再生可能エネルギー、このように新しいエネルギーの誕生が重要です。
このように、われわれは常に、ヒトというものの在り方、社会というものの在り方、科学技術の在り方、こういったものを常に問われているのです。
では、このようなヒトのヒストリーと関連して、地球が今どうなっているかを見てみます。地球が抱え...