●デカルトが完成できなかった『精神指導の規則』
西洋哲学史の、本当の巨人といって構わないデカルトですが、なんと完成できなかった本があります。巨人でも完成できなかった本があるのです。その名も『精神指導の規則』です。これは、デカルトが生前に完成することができなかった本で、1628年頃に諦めたと言われています。彼が32歳の頃でした。
この本、完成はしませんでしたけれども、なかなか面白いつくりになっています。なぜならば、精神指導のための規則として一行から数行にわたる二十一個の規則があり、それぞれに数ページの解説をつけているからです。一見すると、取扱説明書か手引書、あるいはマニュアルといった印象を受ける本なのです。
では一体、何の取扱説明書なのかというと、精神能力をどうやって使ったらよいかということの解説です。しかし、デカルトはこの本を完成することができませんでした。この取扱説明書ということについて、少し見ていきたいと思います。
●水平的な知識の増大と、垂直的な精神能力の向上
早速見ていただきたいのは、四番目の規則です。そこでは、確実で簡単、そして容易なさまざまな規則からなる方法について、次のように定義されています。
「それらを正確に守った人は誰でも、けっして偽りを真と取り違えることがなく、また、精神の努力を浪費せずに、つねに一歩ずつ知識を増やしながら、認識することのできるすべての事柄について真の認識に到達する。」
これは解説文からの引用です。解説文は何について解説しているかというと、先ほど申し上げた一行から数行にわたる規則のほうですが、そこではこう述べられています。
「事物の真理を探求するには方法が必要だ。」
何か当たり前のことを言っているように思えるので、もうすこし深入りしてみることで理解を深めていきたいと思います。まず二つのことに注目したいと思います。
まずは先ほど読み上げた引用文の中ですが、「一歩ずつ知識を増やしながら」とデカルトは述べています。知識が増えていくとはどういうことかというと、方法を使ってさまざまな問題を一個ずつ解決していくということです。
それは学問上の問題かもしれません。人生のさまざまな課題かもしれません。いずれ...
(デカルト著、野田又夫訳、岩波書店)