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デカルトが完成できなかった『精神指導の規則』

デカルトの方法論に学ぶ(1)精神能力を鍛えるための方法

津崎良典
筑波大学人文社会系准教授
情報・テキスト
『精神指導の規則』
(デカルト著、野田又夫訳、岩波書店)
人は誰しも、困難にぶつかることがある。では困難を乗り越えるためにはどうすればよいのか。デカルトによれば、そのための方法はたった四つしかないという。それぞれどのようなものなのか。(全2話中第1話)
時間:10:28
収録日:2018/09/27
追加日:2019/02/24
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≪全文≫

●デカルトが完成できなかった『精神指導の規則』


 西洋哲学史の、本当の巨人といって構わないデカルトですが、なんと完成できなかった本があります。巨人でも完成できなかった本があるのです。その名も『精神指導の規則』です。これは、デカルトが生前に完成することができなかった本で、1628年頃に諦めたと言われています。彼が32歳の頃でした。

 この本、完成はしませんでしたけれども、なかなか面白いつくりになっています。なぜならば、精神指導のための規則として一行から数行にわたる二十一個の規則があり、それぞれに数ページの解説をつけているからです。一見すると、取扱説明書か手引書、あるいはマニュアルといった印象を受ける本なのです。

 では一体、何の取扱説明書なのかというと、精神能力をどうやって使ったらよいかということの解説です。しかし、デカルトはこの本を完成することができませんでした。この取扱説明書ということについて、少し見ていきたいと思います。


●水平的な知識の増大と、垂直的な精神能力の向上


 早速見ていただきたいのは、四番目の規則です。そこでは、確実で簡単、そして容易なさまざまな規則からなる方法について、次のように定義されています。

 「それらを正確に守った人は誰でも、けっして偽りを真と取り違えることがなく、また、精神の努力を浪費せずに、つねに一歩ずつ知識を増やしながら、認識することのできるすべての事柄について真の認識に到達する。」

 これは解説文からの引用です。解説文は何について解説しているかというと、先ほど申し上げた一行から数行にわたる規則のほうですが、そこではこう述べられています。

 「事物の真理を探求するには方法が必要だ。」

 何か当たり前のことを言っているように思えるので、もうすこし深入りしてみることで理解を深めていきたいと思います。まず二つのことに注目したいと思います。

 まずは先ほど読み上げた引用文の中ですが、「一歩ずつ知識を増やしながら」とデカルトは述べています。知識が増えていくとはどういうことかというと、方法を使ってさまざまな問題を一個ずつ解決していくということです。

 それは学問上の問題かもしれません。人生のさまざまな課題かもしれません。いずれにせよ、一つ一つ難問を解決していく、そのための方法、つまり解決法としての方法なのです。一歩ずつ知識が増えていくというのは、解決した事柄が一個ずつ増えていくことです。問題を解決しては一つ答えが出てきて、別の問題を解いてはまた一つ答えが出てくるということです。

 そうすると、たくさん知識が増えていきます。つまり、方法が横に広がっていくイメージです。一つ問題を解決したら、隣の問題を解決して、また隣の問題を解決して……という感じです。

 次に注目したいのは、実は彼にとって方法は単なる問題の解決法ということだけではなく、実は精神のさまざまな能力を鍛えるためのものであったことです。

 これは、この本のタイトルからも分かります。「精神指導」というのはあまり好きではない言葉ですが、いずれにしてもタイトルには「指導」という強い日本語が使われています。何のための方法かとデカルトは問われると、次のように答えます。それは、この方法をきちんと使ったら、精神がきちんと使えるようになる。つまり、精神のパフォーマンス、能力を高めていくための方法、ということです。

 この場合、方法は垂直に上がっていくイメージです。方法を使えば使うほど自分の生まれつきの能力がだんだん向上していく、高まっていく。能力が高まっていくとは、横に広がるだけでなくて上に上がっていく、そうした二つの運動からなるイメージでデカルトの方法が捉えられるということです。

 では、高みを目指すとはどういうことか、自分の精神の能力を高めていくとはどういうことなのか。先ほどの引用文に戻りたいと思います。デカルトは、「つねに一歩ずつ知識を増やしながら」だけではなく、「けっして偽りを真と取り違えることがなく」とも言っていました。間違いを正しいこととは思わない、これが能力を正しく使うということです。

 つまり、取り違えないことが精神指導というトレーニングの目標として念頭に置かれていたのです。難問を解決するためということだけではなく、精神の能力を鍛えるトレーニングという側面が、このデカルトの方法には込められていると、まずはご理解ください。


●方法には四つの規則がある


 では、トレーニングとして、精神の能力を鍛えていくための方法という側面をもう少し見ていきたいと思います。

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