『中東国際関係史研究』を読み解く
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ローザンヌ条約がトルコにもたらした大きな成果
『中東国際関係史研究』を読み解く(3)知られざるカラベキルの生涯と功績
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
卓越した外交、軍事の才を持つっていたがために、ケマル・パシャからライバル視され、政治的失脚に追い込まれたキャーズィム・カラベキル。しかし、彼はその不遇の時代も豊かな文化人的資質をもってトルコの発展に寄与した。山内昌之氏が、キャーズィム・カラベキルの後半の生涯と豊かな人間性について語る。(全3話中第3話目)
時間:18分25秒
収録日:2014年6月18日
追加日:2014年7月17日
カテゴリー:
≪全文≫

●ローザンヌ講和会議でのイスメト・イノニュの「交渉なき外交」


 前回まででお話ししましたように、イギリス、フランスなどの列強を相手とした民族運動において、ケマル・パシャ、すなわちアタテュルクがギリシャとの西部戦線を主導し、カラベキルは東部戦線を担当しました。 アタテュルクは、ギリシャを1922年の暮れにアナトリアから駆逐することに成功します。そして、その成果に立って、1922年から1923年にローザンヌで講和会議を開きます。

 ローザンヌの講和会議には、アタテュルクは彼の盟友であり、そしてカラベキルとは陸軍士官学校以来の友人であった、イスメト・パシャという人物、これは後のトルコ共和国2代目の大統領であるイスメト・イノニュのことですが、このイノニュとなる人物をローザンヌに派遣します。

 イノニュという人物は、非常に不器用な人物でした。ケマル・パシャもイスメト・パシャも、カラベキルのような繊細な外交感覚、あるいは語学力、あるいは教養というような点においては、いずれもカラベキルにはかなわなかったのです。イスメトは特にそうだったわけですが。イノニュは不得意な言葉、外国語でなかなか苦戦します。というのも、イギリスは全権大使としてカーゾン外務大臣が出てくるわけですから。このカーゾンは、インド帝国のバイスロイ、つまり副王も務め、そして、本国イギリスにおいては外相をずっと務めていた、こういう名うての植民地帝国の経営者でした。このカーゾンが出てくる外交会議、講和会議です。そこにイスメトが出かけていく、これだけでも不思議な絵になるのです。

 さて、カーゾンはどうしたか。あるいは、イスメトはどうしたか。カーゾンは、弁舌豊かにいろいろと、説得していく。敗戦国に対して、講和というのはこうあるべきものということを説いていく。

 イスメトはどう対応したかというと、次の二つのようなことをしました。一つは、ケマル・パシャから受けた訓令を、一字一句も逃さずそこから逸脱しないようにした。ですから、交渉ではないのですね。自分はそこから絶対譲らない、ということを何回も繰り返すだけです。

 そして、2回目はそれでも不都合になると、彼は聞こえないふりをしたのです。何回も聞き直したり、聞こえないふりをする。実際に彼は耳が遠かった部分もあるようではありますが、聴力にさながら障害があるようにして...

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