●経済学が普遍的な学問になり得た理由
―― (前回は企業でも学問でも、競争がそれらを変え、動かすエンジンだとうかがいました。)それに加えて経済学にはグローバルな学問だという側面がありますよね。
柳川 経済学がグローバル性を持ち得たのは、理論モデルをつくって、抽象化したピクチャーをつくり上げたからです。もちろんそれが100パーセント現実模写ではないので、細かいところは厳密性を欠くのですが、そういうモデルをつくり上げたことで、それが他のところで適用しやすくなった。グローバルで、国が違えば、制度も違うし、社会的なシステムも違うので、そのままでは、実は応用できなかったりするのですが、「大枠のところはどこの国でも似たようなことが起きている」、ということでいくと、その理論モデルが通用する、ということができたので、そこがある意味で普遍的な学問になり得た一つの理由だと思います。
中には「そういうのは学問ではないんじゃないか。現実の100パーセントの記述ができていないので、科学といえないんじゃないか」という人もいるんですけど、現状でいう社会科学というのは、そういうものだと思うんですよね。ある種の、現実の、分かりやすい見取り図、地図を描く、と。現実の分かりやすい見取り図というのは、100パーセント現実を模写するわけじゃないと思います。やはりそういうものをつくることには、僕は意義があると思っています。
●理論モデルを補強するデータ分析と「実験経済学」
柳川 ただその経済学の中でも、昔は実験ができないから、理論モデルがあっても、それが本当に正しいかどうか、なかなか検証できない、という議論がされていたんですけど、ここ最近は経済学でも大きな変化が起こりつつあって、かなりのデータ分析ができる、実証分析ができるようになったので、世の中、本当は何が起こっているのか、ということをデータで見ることができるようになった。
そうすると、理論の検証だとか、実際、「実験経済学」みたいなのもあるので、それは箱庭実験みたいだったりするし、限界のある実験ですけど、理論を検証することができるようになってきた。ということで、かなりデータだとか実際に起こっていることをしっかり見る、というところにウエイトが置かれるようになってきました。ここが今の経済学の大きな変化だと思います。
―― その流れで今、ビッグデー...