●目的は独裁体制確立?やまぬ粛正の嵐
── 習近平という人はただものではありませんね。
岡崎 私もそう思うのです。顔つきから言っても、どこか毛沢東のようです。目が鋭くて、何を考えているか分からないでしょう。
── お父さんは習仲勲で、毛沢東の怖さとすごさを、自分もよく……。
岡崎 知っているのですよね。
── 文化大革命(文革)の時に、自分も父親もたたかれましたので、両方を見て、その知恵がおそらく…。
岡崎 習近平が7月に周永康を粛清しましたよね。これは粛清するだろうと前から言われていましたが、しかしこれはいったい何が起こっているのだろうかと思っていました。
もちろん権力闘争ではあります。ですが、権力闘争というものは、普通、大臣や党の要人のポストの話です。ポストの話だとすると、一昨年の党大会で常務委員を全部入れ替え、それから全人代で大臣を入れ替え、普通ならそれで権力闘争は終わっているはずなのです。
ですから、その頃の評論では、今は中国が強硬な態度をとっているけれども、それはやはり権力闘争の最中は「軟弱だ」と言われると足を引っ張られるから、強硬派のふりをしなければならないからだろう、ゆえに権力闘争が終わったら、あるいは少しは穏健化するかもしれないという判断もあったぐらいです。共産党大会と全人代と両方を通じて権力闘争がないわけはないのだから、それでだいたい片が付いたろうと。
それで、片が付いたのが去年の4月です。ところが、その後もすごい勢いで粛清が続けられているのです。それはいったいどういう意味だろうかと思うと、もちろん権力闘争だけれども、ただの権力闘争ではないのではないか。
では、どういう権力闘争かというと、習近平の独裁体制をつくるための権力闘争なのではないか。そうとしか、私は考えられないのです。
独裁体制をつくるための権力闘争とは、一番ひどい例を言えば、1938年から39年にかけてのスターリンの粛清です。これはものすごかったです。
── トロツキーとか。
岡崎 レーニン以来の革命精神に燃えた連中、つまりロシア革命の原動力になった面々をほとんど全部殺してしまいました。この粛正で30万人以上は優に殺したのではないでしょうか。
── すごい数ですね。
岡崎 粛清といって、本当に裁判にかけて殺しました。それで、習近平が軍制服組の徐才厚を粛清しましたね。
── はい。公開起訴されて。
岡崎 スターリンはミハイル・トゥハチェフスキー元帥という赤軍の英雄を粛清してしまったのですが、今度の徐才厚粛正はそれに近いのかなと思ったりもします。もちろん、そこまで行っていません。あの時、スターリンは本当に30万人以上を粛清しました。そして本当にもう、あれでソ連という国は性格が変わってしまったのです。皆、ただ怖くて戦々恐々として、独裁者の言うことしか聞かなくなった。
中国はまだとてもそこまでは行っていません。行っていませんけれども、過程としては、単なる権力闘争でやったというだけではなく、独裁体制を築くためにやっているのかなというのが、現在のところの私の判断です。
●これはスターリンの大粛正の再来なのか
岡崎 そうだとすると、何を除かなければならないかというと、やはり江沢民系を除くのだろうと言われています。
徐才厚は江沢民系だと言われています。ですから、それは分かります。それで、今度の周永康は、彼ももともと江沢民系なのですが、今度は江沢民の了承を得ていると言うのです。
周永康は江沢民の娘か親類のお嬢さんを妻にもらっているのですが、何でも他に愛人ができたとかで殺してしまったというのです。江沢民の親族である妻を殺して、今はその愛人と結婚している。それで江沢民が怒っているという説があるのです。
真偽は分かりません。分かりませんが、しかし私はやはり習近平は独裁体制をつくっているのではないかと思います。
今度の周永康粛正に関しては、表向きは汚職腐敗摘発だと言っています。ですが、2012年の薄熙来事件があって以来、共産党の幹部の汚職腐敗というのはもう周知の事実になっているのです。習近平だってそうでしょう。親類などは皆、もうオーストラリアなどに逃げる気でいるでしょう。皆、莫大な資財を蓄えていますから。
ですから、そうすると、汚職追放と言っても全員が汚職をしているのだから、やはり権力闘争です。そうとしか考えられない。
それと、もう一つは、軍との関係がこれまた分からないのです。軍がここまでのさばってきたのは、江沢民時代のことです。江沢民時代から今に至るまで、軍の予算が毎年2桁ずつ増えています。これも常識で言ってそういうことはあり得ない。でもそうなっている。ということは、結局、軍が「これだけほしい」と言っ...