●アメリカの空母機動部隊をペルシャ湾にくぎづけに
皆さん、こんにちは。さて、(前回は)中東におけるロシア、イラン、アメリカとの関わりについて触れましたが、その際、中国についても触れました。
中国は、もう誰もが見知っているように、世界的な規模において大規模な軍拡(軍備の拡大)を行なっています。数だけでいえばアジア最大の空軍、そして世界で最大規模の陸軍を持っており、また、艦船の数においては世界最大になっている海軍を保有している、軍事超大国であることは間違いありません。
アメリカのインド太平洋海軍司令長官は、「2027年までに中国は台湾の侵攻に成功する能力を名実ともに持つ」と警鐘を鳴らしいます。そしてアメリカ国防総省は、台湾侵攻の最大の機会はいつか、という問いを発したうえで、中国の軍事力がピークに達し、かつアメリカがまだ中国のピークに達することができない期間は、2025年から2030年の間の5年間だといっています。この2025年から2030年の間こそが、中国の台湾侵攻の危機ではないかという見立てを、米軍の海軍司令長官が述べているわけです。
一方において、イランとの関係についていえば、中国は台湾有事となった場合に(これは究極的に戦争ということになるわけですが)、イランと、湾岸におけるイランの代理勢力が、中東における各国の石油天然ガスを中心とした海運システム(海上運輸)を脅かし、そしてできればペルシャ湾地域にアメリカの複数の空母機動部隊(戦前の日本風にいうならば「航空艦隊」ということになりますが)をくぎづけにしてもらいたい。
(アメリカの空母機動部隊を)ペルシャ湾に張りつけておくと、東アジア、台湾における展開能力というものを限定することになります。そのことをイランに期待している。これは大きな要素だと思います。
中東原油に90%依存している日本ほどではないわけですが、中国は海外からの輸入原油の50%を中東に依存している現実があります。すなわち中東の覇権国であるアメリカの影響力の減少、あるいは影響力の排除というのは、(中国にとっては)いわば細くて非常に長い原油の供給ルートを保護する意味もあります。シーレーンが切実なのは、何も日本だけではありません。
中国にとっても、自国の産業、あるいは軍需機構との関係で必要な原油や天然ガスの安全なシーレーンを維持しようという問題意識は大変強いわけで、その際に、アメリカの影響力をできるだけ中東から弱めよう、できれば排除しようというのが、本音ではないかと思います。
しかし中国はある意味で、大変合理的かつ現実的な面を持っていますから、中国がアメリカと正面対決したり、アメリカとの緊張が非常に危ういものに変質したりすることを恐れています。
それでは、どういう形でアメリカに対して打撃を与えるのか、それは、ボディーブローではなくて、むしろジャブを繰り返し打っていくことです。
そのジャブのいわば当て馬に使おうとしているのがイランだということです。そして、イランが影響力を持っている、すなわち革命防衛隊の指揮下あるいはその手下になっている、(イエメンやシリアあるいはイラク、湾岸に潜んでいる)シーア派勢力、あるいはシーア派の武装兵力などが、一種イランからするならば、当て馬になる、と。
イランはもちろん、中国に利用され、当て馬で満足するほどの、小さな器の国ではありません。つまりイランは確実にそうしたことも認識しつつ、今は中国と関係を持っているというふうに考えるべきです。しかしいずれにしても、イランの役割というのは、中国にとってはそのようなものだということです。
●中国による湾岸諸国への武器供与と核開発の危険性
最近、イランのアブドゥヒヤン外務大臣は、「2021年に結んだイランと中国との戦略的な協力協定が、今もう実施段階に入った」と公言しました。外務大臣がこのように軍事の領域において「実施段階に入った」と公言するのも、大変異例なことですが、これは何を意味しているか。
この協定の核心、戦略性はどこにあるかというと、イランの原油と、中国によるイランの安全保障との「スワッピング=交換」だということです。つまり中国は、イランとその代理勢力を、ペルシャ湾における(アメリカ直接ではなく)アメリカの同盟国に対して攻撃や牽制(けんせい)を仕掛ける方向へ、積極的に仕向けようとしているということです。
実際、イエメンのシーア派である「ホースィー派」などが、最近、UAEなどに対してミサイル攻撃を仕掛けている。あるいはUAEに対して1カ月間に4回のペースで、このジャブとしてミサイル攻撃や爆撃などが仕掛けられているということが、最近確認されているわけであります。これは、イランの意思がどこかで働いていなければ、できようもない行為...