●中国共産党はどのような組織なのか
―― ここからは、まず中国共産党のあり方の問題についてお話をお聞きできればと思います。
先生は本(『中国共産党帝国とウイグル』)の中で非常に興味深いことをお書きになっています。今の中華人民共和国の憲法の前文には中国共産党という位置づけがあるのですが、いわゆる法律の条文にはその共産党を規定しているところがないというご指摘です。これはどういうことを意味しているのでしょうか。
橋爪 中国共産党はあります。あるので当たり前に存在しているような気がしますが、よく考えてみると非常に奇妙です。
まず共産党は任意団体です。国家は任意団体ではありません。加入の手続きがなく、そこにあることが絶対的で、税金を取られたり選挙権などを与えられたりします。戦争になれば、徴兵されることもあり、そうなると戦争に出ていかなければならないなど、いろいろと抜き差しならない関係があります。そういう意味ではほぼ唯一の団体で、コストが大きいので、例えば「私たちは日本国の日本人です」とか「アメリカ合衆国のアメリカ人です」という意識を持って、毎日生きています。こういう国家はたいていの人には1個しかありません。
中国共産党の場合、「生まれたら共産党員でした」という人は一人もいません。「共産党に入りたい」と申請を出して、認められたら共産党員になれます。そういう人たちの集まりが共産党です。共産党に入っても、入らなくてもいいのです。入りたい人だけが集まっているのが任意団体です。
●中国共産党は国家の上に存在している
橋爪 さて中国共産党と中華人民共和国の関係ですが、その関係は中華人民共和国憲法には書いてありません。書いてあれば国家機関ですが、書いていなければ国家とは無関係です。したがって、書いていないので国家とは無関係です。
では本当に無関係な任意団体かというとそんなことはなくて、中国共産党が国務院やその他、政府を指導しています。そして、中国共産党が人民解放軍という政府の軍隊を指揮しています。こういう統帥権や行政監督権といった国家のさまざまな権限を実質的に持っています。
―― 人民解放軍は、中国という国家の軍隊ではなくて、中国共産党が持っている軍隊という位置づけということですね。
橋爪 はい。中華人民共和国ができる前から人民解放軍はいて、当時は八路軍や新四軍などの名前がついていました。軍隊が先にあって、その軍隊が中華人民共和国をつくったという順番なので、軍隊は初めから中国共産党の言うことを聞くようにできています。党にも国にも軍事委員会はありますが、党の軍事委員会のほうが国の軍事委員会より(立場が)上です。中国共産党中央の軍事委員会主席が作戦命令権である統帥権を持っているのです。
このように、普通の国家と大変違います。アメリカや日本などの憲法を持っているたいていの国とは違うのです。
こういう異例なあり方として、かつてのソ連では共産党が政府を指導していたことが挙げられます。それからナチスがいます。ナチスは軍が統帥権を持っていたのですが、ヒトラーがそれに介入したので、いろいろややこしいことになっていました。それから、少し中間的なのはイラン・イスラム共和国です。宗教評議会があって、大統領や首相を指導したりしています。そういう少し例外的なものがあり、例外の親玉が中華人民共和国です。
―― これは簡単に分かりやすくいうと、国家があった場合、その上に党があって党が国家を指導しているというイメージですか。
橋爪 そうです。憲法は国をコントロールしますが、憲法や国家の上に中国共産党があるので、中国共産党は憲法によってコントロールされません。人民も政府職員も法律に従いますが、中国共産党は法律に従いません。つまり超法規的な存在なのです。
●日本の天皇制との比較でみる中国共産党の位置づけ
―― これは非常に面白い形で興味深いですね。先生の本の中で印象深かったのは、大日本帝国憲法における天皇の位置づけと、今の中国共産党と中華人民共和国の憲法の位置づけの比較です。これについて教えていただけますでしょうか。
橋爪 大日本帝国憲法を見ると、初めのほうに天皇についての規定がたくさんあります。第1条では「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」、第3条では「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」と書いてあります。また、「天皇は憲法の条項によってその権限を行使する」ことや、「内閣が輔弼と助言をして、政治責任は内閣が取って、天皇は責任を取らない」など、いろいろと書いてあります。要は、天皇についての憲法の条項があるので、天皇は国家機関なのです。国家機関であれば、憲法に縛られます。
―― ちょうど戦前で...