●強制収容所で行われている洗脳プログラム
―― 最初の10分講義では(中国に)非常に強制的な収容所などがあるという話でしたが、例えば自国語や自国の文化を捨てなかった人をそういうところに入れてしまっているということですね。
橋爪 はい。なぜ暴行や虐殺が起こるかというと、これは心理的なダメージを与えるためです。
例えば、現状に不満な人が100人いるとして、その人たちを無理やり連れてきて集団生活をさせて、「共産党、ありがとう」と大きな声で言わせるなど、いろいろなことをしています。そこにいた100人の内、3人でも、5人でも、10人でもいいのですが、適当に殴りつけたり独房に入れたりして、拷問します。本人に責任がなくてもいいのです。そして「ぎゃー」という声が他の人に聞こえる。中には運が悪くというか、意図的かどうかは分かりませんが殺されてしまう人もいます。そうすると、行方不明になって、どこかに埋められてしまったりします。
それは、そうされていない残りの99人や95人の人たちにとって、とても強いプレッシャーになります。「もし今ここで抗議の声を上げたら、私もあのようになるに違いない。そうやって惨めにむごたらしく命を落としたとしても、家族は悲しみ、誰も喜ばない。自分のためにもならない。それなら大人しくして、命を長らえるしかないじゃないか」と誰もが考えるようになります。
そして、初めのうちは内心の自由を守って、表面は大人しくするつもりです。そうすると、「君は最近なかなか大人しくなった。では中国共産党の素晴らしいところを原稿用紙10枚で書いてごらん」となって、「素晴らしいです」と1行書いただけでは怒られるので、素晴らしいところをいろいろ考えて書いていかないといけません。さらに、「よくできたな。では、次は20枚書いてごらん」ということをどんどんやったとすると、そういうことをやっている自分を認めないといけないので、だんだん頭の中が入れ替わっていくのです。
これは洗脳プログラムですが、そういうことに2、3年かかります。それぐらいしたときには、自分が洗脳されたことを自分で拒否して(否定して)、「もとからこういう人でした」となる。そこから出ていかせるのがプログラムの目的であり、そういうことをやっているのです。そのため、拷問や虐殺などはこのプログラムの一部で、意図的にやっていることです。その他にも人間性に反することがありますが、それは必要だと思ってやっています。
これはナチスがユダヤ人をともかく有無を言わさず、片っ端から殺害したやり方とは少し違いますが、人間性に反する、むごい点という意味では似たようなものです。そして、したたかな政治的計算があります。こういうことを理解した上で共産党中央はやっているのです。
これが問題なのです。こういうことが平気でできる政府が、世界で1、2位を争う経済大国になって外国に影響力を持ち、国際社会を仕切っていいのかという問題です。
●中国共産党が自己正当化する背景としての「3つの功績」
―― 洗脳プログラムについて非常に詳しく教えていただきました。先生の本を読んでいると、共産党がそういうことをやるのは、ある意味では共産党が共産党であるからだというお話を書いています。これはどういうことか教えていただけますでしょうか。
橋爪 こういう組織は他にないので、共産党がどうやって自分たちを維持して、「自分たちは正しい」と認識しているかを理解するのはなかなか難しいのです。
これにはいくつかの要素があります。一つ目は、植民地化されていた外国勢力を追い払って独立を達成したことです。これは明治維新に匹敵するようなことで、明治維新もすんなりいかず、紆余曲折があって大変でした。最終的に中国共産党が頑張ってそれを実現したので、中国共産党の功績です。
二つ目は、中国の進歩発展を阻んでいたいろいろな古いしきたりや習慣を拭い去ったことです。そして、中国人民が団結して近代化を目指し、社会インフラの整備から、大学や病院などいろいろな設備をつくり、軍隊も産業も強力になるような国づくりをしたのも、共産党の功績です。
それをいうと、韓国、台湾、シンガポール、そしてインドなど、たいていの政権は頑張って近代化を成功させています。中国共産党だけの功績というわけではありません。それでも、かなりうまくやっているといえないことはないのです。
三つ目は、昔は外国に軽蔑されていましたが、国際的な地位を向上させて、尊敬を勝ち得るまでに大きな存在になってきていることです。そして、これからもっと大きくなるというビジョンを国民に与えて、自信とエネルギーを皆に持たせました。そして、皆が貢献して自分の生活を豊かにし、国家も強力にできるように共産党に結集して国づくりをしましょ...