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中国儒教では忠と孝のうち孝のほうが大事

宗教で読み解く「世界の文明」(6)中国文明における儒教

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
情報・テキスト
伝統中国を基礎づけているのは儒教である。忠と孝という考え方によって、人々の間の序列を明確にし、社会秩序を保つことを可能にしている。現代の中国共産党も、こうした儒教的性質から理解できる。(2019年11月12日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「宗教で読み解く世界」より、全9話中第6話)
時間:15:14
収録日:2019/11/12
追加日:2020/05/31
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≪全文≫

●伝統中国を基礎付ける儒教の役割


 最後に中国です。伝統中国の標準形には、皇帝がいます。また、皇帝には「宗族」と呼ばれる親族集団がいます。さらに、政府職員である官僚がいます。選抜試験があり、科挙に合格すると官僚になることができます。こうした一般庶民と行政官僚とトップの皇帝によって成り立つ仕組みが、伝統中国のやり方です。このように社会を運営するべきだと説明しているのが、儒教です。

 儒教で強調されていることが2つあります。1つは「忠」で、もう1つは「孝」です。どちらも服従を意味するのですが、「忠」とは政治的リーダーに服従することです。すなわち、上役に服従することなのですが、究極的には皇帝に服従することを指します。「孝」とは、血縁に年長者と年少者がいるとすると、年長者に服従するという教えです。極端に煮詰めていえば、親に服従するということです。

 服従すると何が生まれるかというと、秩序です。誰が偉いのかがよく分からないために、混乱は生じるという考え方です。『4行でわかる世界の文明』(角川新書)という本にも書きましたが、偉い人が2人いると、“くんずほぐれつ”になってしまいますが、儒教の考え方に従えば、あらかじめ順番が決まっていることになります。


●服従による秩序の仕組みである忠と孝


 親族の場合、年齢によって判断できるので、どちらが偉いかは一応決まります。家族の場合、兄か弟かというように決められます。しかし、親族でもいとこの場合、年齢が上だったとしても、弟の系統だと偉くない場合もあるため、分かりづらくなることがあります。こうしたケースを避けるために、細かく仕組みがつくられています。例えば、兄弟がおり、男性の4人兄弟だとすると、1番上のお兄さんは大哥です。2番目のお兄さんは二哥です。それから3番目、4番目、と続きます。これを横で聞いていると、同じ兄でもどっちが偉いかが客観的に分かります。

 日本の場合、弟と兄は身分が違うので区別しなければなりません。しかし、お兄さんが2人いた場合、どちらが偉いお兄さんか表示されません。そこまでのことは社会が要求していないのです。それに対して中国では社会が要求しているので、このような呼び方になっています。お姉さんも同じです。

 例えば、もし4番目の兄弟に子どもが生まれた場合、上のお兄さんたちをどう呼ばれることになるのでしょうか。お兄さんと呼ぶわけにいかず、伯父さんと呼ぶことになります。その場合、1番上の伯父さんは大伯になり、2番目は二伯となり、繰り上がっていきます。そうすると、血縁関係がよく分かります。また、父方と母方で呼び方が違うので、父方と母方で異なる義務関係もよく分かるようになります。

 このように、10~20人の人たちが集まっても、誰が一番偉く、誰が一番偉くないかについて、すぐ順番が付けられるように社会組織ができているのです。これが親族呼称法というものです。


●序列を明確にすることで意思決定が容易になる


 官僚の仕組みどのようになっているのでしょうか。官僚組織においては、順番を付けることがとても重要視されています。例えば、科挙の試験の発表の傘連判のように、名前が50人ぐらい発表されるうち、「状元」と呼ばれるトップ、つまり首席で合格した人には、すでに名前が付いています。2番目にも名前があります。全ての順位に名前が付いており、何番の合格ということが一生ついてまわります。ですから、首席で合格したら局長大臣は間違いないと見なされています(いろいろなことがあり、時々失脚してしまうこともあるのですが)。

 その他にも、現代の中国では、工場に所長(工場長)さんがいるとすると、その下に副所長などの役職が5~6人いることがよくあります。組織図を見ると横並びなのですが、彼らの間には明確な順番が付いていて、誰が上で誰が下かが決まっています。中国共産党にも、中央政治局常務委員が7人いますが、習近平が1番で李克強が2番などと、全員の序列が番号で決まっているのです。もちろん、これは7番で終わりではなく、8番、9番という形で、50番ぐらいまで明確に決まっています。党大会のときにはその順番で座ることになります。また、車で移動するときにも、車列の何両目に乗るのかがこの順番で決まります。あるいはテレビで重要人物が来たことを放送するときにも、どの順番で名前を言うかなど、ことあるごとに序列の何番目かを確認できるようになっているのです。これが、中国の秘密です。

 このように順番が決まっていると、意思決定がスムースです。誰が決めるかというのが、事前に決まっているため、意思決定のプロセスが分かるからです。これにより、紛争を押さえているのです。これが忠と孝です。


●忠と孝が矛盾するケースもある


 さて、忠と孝では、どちらが大事なのでしょ...
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