●マウンドに立つものの心がけと「ちゃんとした」人間像
―― 続きまして、今度は高校時代のお話で、花巻東高校の佐々木洋監督に学んだことになります。まず、佐々木監督がおっしゃったことで、「球場の一番高いマウンドに立つ人間は、みんなが一番嫌がる仕事をしなさい」と教えられた。これを受けて、「ちゃんとした人間にちゃんとした成果が出て欲しい。本当の意味でのトップの人間はそうあるべきだと信じている。信じているからには、自分もそんなふうにやっていきたい」と言っています。
桑原 はい、高校野球の監督の本などもいろいろ出ています。しかし、このように、人間性に関わるものはそれほど(多く)ないですよね。もちろん勝つためのことはみんなが教えますが、菊池雄星選手も教えを受けた花巻東高の場合、マウンドに立つ投手の心がけを説いている。投手はどうしても自分が中心で、まして大谷選手の場合は「投手で4番」ですから圧倒的な存在になりがちなのですが、そういう人間こそ人の嫌がる仕事──例えばトイレ掃除やゴミ拾いなどを今でも彼はしています──をすべきだと、きちんと教えられた。
私がすごいと思うのは、「ちゃんとした人間にちゃんとした成果が出てほしい」という考え方です。今の時代、成功者(のイメージ)が少しずれてきているわけです。そういう意味で、このように人間性に非常にこだわった考え方が今の大谷選手につながっているのだと思います。
―― 時と場合によっては、結果さえ出せばいいというようなことも、特に実力主義などというと、そんな言葉さえ出てきますけれど、そうではないというところですよね。
桑原 そうですね。
●「楽しいより正しい」ことを自分で選べる強さ
―― 続けまして、「高校時代、『楽しいより正しいで行動しなさい』と言われてきたんです。クリスマスに練習したのも、楽しいことより正しいことを考えて行動した結果」です。
桑原 これはすごいと思います。やはり人間というのは、プロでもそうですが、どうしても楽しいほうに行きがちになります。
―― そうですね。
桑原 楽しいことと正しいことがある中で、何が自分にとって一番大切なことなのか。野球選手として、世界一の野球選手になりたいという思いがあったら、何が正しいかを自分で考えられる。だから、このように大谷選手が言っ...