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バブル期に買ったサンデーサイレンスが日本馬を強くした

世界最高峰の競馬・凱旋門賞2021(2)バブルの遺産

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
前話で紹介されたように、2021年に凱旋門賞に出走したディープボンドは、同じロンシャン競馬場で行なわれた前哨戦ともいうべきフォワ賞に出て、1着となっていた。しかも、同年の凱旋門賞より6秒もタイムが良かったのである。馬場の状態が良かったという条件の違いはあるが、いってみれば同年の凱旋門賞の優勝タイムと比して36馬身の差をつける快走であった。なぜ日本馬のレベルがそこまで上がったのか。それは、日本のバブル経済の恩恵だという。しかも現在においても、日本の競馬産業の規模は、他と比して圧倒的に大きいのだ。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:40
収録日:2021/09/08
追加日:2021/10/21
ジャンル:
≪全文≫

●バブル経済の遺産が、日本の競馬界にそのまま残っている


―― 本村先生、日本の馬のレベルがそこまで上がったというのはどういう理由なのですか?

本村 これは、いちばん大きいのは1990年くらいにアメリカのサンデーサイレンスという馬を買ってきて、日本の種馬にしたのです。サンデーサイレンスというのは、おそらく1980年代、アメリカの最強馬だと思います。そんな馬を、アメリカが手放してしまったのです。あとで悔しがっているのですが。

 つまり、最初の2年間くらい種馬としてやったのですが、どうもあんまり走りそうな馬が出てこなかったということで、日本では吉田善哉さんという社台グループ(日本の競走馬生産牧場グループ)の大親分だった人が買った。そうしたら良い馬が出てきた。

 つまり、日本が1980年代から90年代の初めにかけてのバブル経済といわれたあのお金が、競馬界にそのまま残っているわけです。「バブルの金はどこに消えた?」といわれますが、競馬界にはハッキリ残っている。あれが、まさに日本の競馬のレベルをアップしました。

 もちろん、ほかの馬も買えるようになりましたけれども、やはりそのなかでもサンデーサイレンスを買ったのが大きな意味がある。ディープインパクトも、サンデーサイレンスの最高傑作といわれているわけですし、また、ディープインパクトの子供が、どんどんどんどん日本を中心に、世界のG1を勝っている。のべ50何レースかG1を勝っているのではないでしょうか。一頭の種牡馬(しゅぼば)の子供が、すごいことです。もちろん、コントレイルのように三冠を無敗で取るような馬も出てきていますし、それからヨーロッパのG1もクラシックレースも取っているというくらいなのです。

 それくらいのレベルになったいちばんのきっかけは、バブル経済で買った、とくにサンデーサイレンスという馬ではないかと思います。

 それから、さきほど1986年の凱旋門賞を買ったダンシングブレーヴも最終的に日本は手に入れるのですが、ダンシングブレーヴはちょっとした種馬としての障害があって、なかなか種付けできないのです。もう本当に残した馬が数少ない。生まれてこないとか、精子の数が少ないとか、そういう難病を抱えてしまっていたものですから。唯一、日本でキングヘイローという短距離のG1を勝った馬を出しましたけれども。

 それこそサンデーサイレンスは1980年代最強のアメリカの馬。ダンシングブレーヴは1980年代最強のヨーロッパの馬です。その2頭を日本が手に入れたというのは、逆にいえば、よく手放したな、というように思います。しかし、それなりのお金ももちろん払ったということなのですが。バブルの恩恵は、競馬界がいちばん、いまでも残っているというかたちであるわけです。


●これまでの凱旋門賞と、2021年の凱旋門賞の違いから見えてくるもの


―― なるほど。それから今回、凱旋門賞は記念すべき100回大会ですが、先生がこれまでご覧になった凱旋門賞と比較して、今回のレースの特徴はどういうところにございましたか。

本村 この間、やっぱり気候変動のせいでしょうか、私が最初に見だしたころの凱旋門賞は、こんなにコンディションが悪くなかったように思うのです。ダンシングブレーヴのときも、あのときはレコードが出たくらいですから。その後もレコードが更新されましたが、そういうものが出ている。つまり2分25秒くらいのタイムで勝敗がついていたということです。それに比べると、ここ数年、やっぱり重馬場(おもばば)、不良馬場になりやすくなっているのではないか。それは気候変動があるのではないかと思います。

 だから、本当は9月のはじめくらいにずらしてほしいですが、100回の伝統がありますし、10月第一日曜日と決まっていますから、そこはなかなか、そう簡単にはやらないでしょう。

―― そうすると、(日本馬としては)ますます馬場対策といいますか。

本村 そうですね、ですから、そこを考えるか、あるいは、ロンシャン競馬場が日本の技術でも導入して、ただの芝だけではなくて、土壌から考えるということでしょうか。

 でも、ロンシャン競馬場だけではなくて、ヨーロッパはみな、自然のところに芝を生やしてやるというのが基本的な競馬場に対する考え方ですから、そこから変えていくのは大変なことではないかと思いますけれども。下手に変えると、日本馬にどんどん勝たれてしまうと思うかもしれないし、思わないかもしれないし……。

―― あと、今回勝った馬が、トルカータタッソというドイツの調教馬ということですが、ドイツの馬が勝った意味というのは、どういうところにございますか。

本村 ドイツは生産頭数が少ないわりにはレベルが高い馬が出てくる。10年前にもデインドリームという馬が勝っているのですが、日本は毎年7000頭く...
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