●日本の競馬新聞の驚くべき情報術を欧州に教えてあげたい
本村 なんだかんだといっても、日本は観客は多いですけれども、ビッグレースの雰囲気になると、なんとなくね……。
日本などはビッグレースになると10万人近く入るわけです。このあいだのロンシャン競馬場は、朝方ずっと雨が降っていたせいもありますが、結局、3万人くらいしか入っていなかったといわれています。あそこはだいたい5万人くらい入ると目一杯になってしまう、窮屈になってしまうくらいなのですけれども。
だけどやっぱり、情景や芝のきれいさですとか、そういうものはヨーロッパは、アスコット競馬場もそうですが、ニューマーケット競馬場だって、それから世界でいちばん美しい競馬場といわれるグッドウッド競馬場というのがありましてね、夏の開催で、グロリアス・グッドウッドという(レースが行なわれる)。BBCのニュースでも、「今週はグロリアス・グッドウッドが始まります」なんてことが平気でいわれるような。
だから馬券の売り上げはともかくとして、常識として、エプソムダービーとか、グロリアス・グッドウッド、ロイヤルアスコットなんかも有名ですけれども、ああいうことは、みんながBBCのニュースでもさっと流すくらい、普通に知っているわけですよね。
―― やはり風物詩になっている。
本村 そうですよね。
―― ヨーロッパの雰囲気が良いというのは、周りの景色も含めた部分ですか。それともお客さんを含めた部分もあるのですか。
本村 お客さんはどうも、日本の競馬ファンは馬の名前をきちんといっているけれども、あそこ(ヨーロッパ)で馬の名前は聞いたことがない。番号ばっかり言っているような気がするのだけれども。どれくらい競馬ファンが、本当の競馬ファンが来ているかどうかというね。
とにかく、いま(日本の)ダービーだとか有馬記念になると、もう天気が良ければ10万人を軽く超えるくらい入りますから。ダービーなどは、12~13万人くらい入るのではないでしょうか。みんな熱心にやっているし、それから詳しいです。
なぜ、日本で競馬が盛んになったか。つまり、競馬新聞というのは、こんな小さなマスに、ものすごい情報が入っているわけですよ。あれがヨーロッパで新聞を見ると、1レースを検討するのに、こんなあちらこちらをひっくり返して、面倒くさいことをやらなければいけないわけです。あの小さなマスに収めることを、何とか教えてあげたいというくらいです。
たしかに日本は漢字がありますから、いろいろ(便利です)。たとえば東京競馬場と京都競馬場であれば、「東」と「京」と書けばいい。それからたとえば小倉競馬場だったら「小」と書けばいい。ところが「京都」と「小倉」は(アルファベット)文字で書くと、最初が「K」になってしまうから、区別ができないわけです。ところが、漢字の場合はものすごい数があるから、区別ができる。
しかし工夫すれば、たとえば「K1」とか「K2」はこれを指すのだということをルールをきちんと決めてやれば(できる)。
ああいうことを整理する気がないのではないかと思います。だからこちらで作ってあげて、「こういうふうにすれば、みんなレースを検討する気になるぞ」というのは(教えてあげてもいい)。
●フランキー・デットーリが7戦全勝した伝説の競馬も見た!
本村 だから私も、向こうに行くと、面倒くさくて、あんまり検討しないのですよ。だから結局、騎手で買ったりするのね。騎手だとわかるわけです。フランキー・デットーリが乗っているから、すごく人気があります、相変わらず。日本の武豊以上の人気があるのだけれども。
私はそれで大失敗したことがあってね。私ね、さっきいった、フランキー・デットーリがアスコット競馬場で7戦全勝した日に、いたんですよ。それが300年のなかに1回しかなかったことなんだけど。そのとき行ったときに、「ああ、フランキーが7レースに出るのなら、今日はフランキーが人気になるから、違う馬を買おう」というようにばっかりやったら、まさにフランキーが7レース全部、全勝しましたからね。そういう意味では、彼との相性が……。
でもまあ、その、めったにないシーンには私は出会っているのです。だから、そういう意味では運がいいと思うから、私は自分がロンシャン競馬場に行かないと、日本の馬が勝てないんじゃないかというね(笑)。私が行ったときに、運が良くて勝てるのではないかと(笑)。
それは冗談ですけれども、ともかく、良いレースは現場で見ると、一生の、ある意味ではなんというか、自分の財産のようなものですね、思い出というものがね。
私はもう高齢者になって、これから何年生きられるかわからないんだけれども、とにかく自分が競馬を始めて、あと2~3年でちょうど50年くらいに...