●ハマスをイスラエルとの妥協なき戦いに向かわせる背景
皆さん、こんにちは。前回は、今起きているガザの問題につきまして、特にイスラエルとハマスの間の対決がなぜ行われているのか、そうした問題について、ガザの市民、子どもたちを襲っている悲劇に触れながら語ってみました。
ところで、こういう疑問も一方では出てくると思います。こうした衝突にあたってイスラエルが行っている行為は、確かに批判されてしかるべきものである。しかし、時としてハマスの方にも責任はないのか。パレスチナの側で実効支配し、そして統治を担っているハマスの政権が、何ゆえにイスラエルとの停戦に応じないのか、といったような問題は、当然疑問として出てくると思います。この点などを中心に、今日はお話してみたいと思います。
今回、確かにイスラエルとの間の対決において、ハマスには妥協がありません。妥協がないのは、ハマスの側が、ある意味この間苦境に立っていたからです。
パレスチナ人の子どもが、7月2日にイスラエルによって殺害されました。ユダヤ人の過激派による行為とされていますけれども。こうした子どもたちが殺害されるという行為を、ある意味で理由、機会にしまして、ハマスはイスラエルとの正面対決に踏み切ったのですが、この背景にあるのは、ハマスが持っている地政学的な弱さ、それから、経済的な弱さということです。
●ハマスの苦境-地政学的弱さと経済的弱さ
簡単に申しますと、ハマスはガザで統治を担っているのですから、そこでは公務員を雇っています。しかし、その公務員たちに対して給料を払えなくなってきているというような状況がある。さあ、どうするか、というような点で、ある意味でイスラエルとの対決といったような面が、彼らにとってはそういう国内における失政をカバーする要素にもなっているのです。
もう一つは、パレスチナ人の内部における、特に西岸を支配しているパレスチナ自治政府(Palestinian Authority、〝PA〟)との関係です。つまり、今のガザにおける問題の複雑性は、イスラエル対ガザ、イスラエル政府対ハマスだけではなく、実はパレスチナ内部におけるハマス対ファタハの対立も関係しています。ファタハとは、パレスチナ解放機構(PLO)の主要勢力であり、今のパレスチナ自治政府を担っている政権です。こうした複雑な関係、さらに、イランやシリアの問題という点が、実は絡んでくるのです。
さらに、ハマスを従来支持していたエジプトのムスリム同胞団出身の大統領・モルシが失脚しました。ハマスは、ムスリム同胞団から別れたものですから、精神的源流、あるいは組織的な流れから言えば、そのムスリム同胞団によって煮え湯を飲まされていたエジプトの国防軍の元将軍、シーシー大統領は、当然ハマスに寛容であるはずもないのです。
こういういろいろな国際的な次元が複雑化することによって、ハマスがイスラエルと戦闘をしているという側面も、一方で見ておかないといけないのです。
●ハマスの高度な政治的意図-イスラエルの攻撃は苦境脱却の機会
したがって、常識的にいえば、政治の文法、あるいは、ゲームのルールとして、平和には平和で応え、平穏には平穏で応えるというのが、われわれの知っているゲームのルールなのですが、事このガザ、パレスチナ、イスラエルにおきましては、平和に対しては平和で応えるという非常に重要かつ単純な文法が、なかなか当てはまらないということを少し見ていきたいのです。
むしろハマスは、今回のイスラエルの作戦のエスカレーションを、自分たちの外交的、経済的な孤立から抜ける機会と捉え、そういう孤立から抜けて、国際世論にその苦境や悲劇を訴えることによって、自らの存在感を高めるという、非常に高度な政治的意図や問題意識を持って行っているという面があるのです。
ですから、イスラエルはこの点を突きまして、「ハマスは人間を盾にしているではないか」「市民を、人間を盾として使って多くの犠牲者を出しているのは、ハマスの方に責任がある」という論調で対抗するのです。
もちろん、このイスラエルの理屈はかなり極端であり、無理筋でありますが、しかし、ハマスが政治的に発想していないということは、全くないのです。
●ハマスに有利な環境を変化させたシリアの内戦
もともと2012年11月、2年ほど前にも事件がありまして、小規模ではありますが、ハマスとイスラエルとの間に武力衝突が行われました。この武力衝突を通しましても、ハマスはガザの支配権を維持しましたし、イスラエルと対決したことによって、ヨルダン川西岸という、パレスチナ自治政府が実効支配している地域においても、ハマスの人気が高まったということになります。
こうしたハマスのイ...