●欧米、特に米国はなぜ「イスラム国」への軍事攻撃に打って出たのか
皆さん、こんにちは。
最近、日本でも「イスラム国」という名を聞く機会が多くなりました。イスラム国とは、中東のシリアとイラクにまたがるテロリズムの集団であり、かつ、国家です。従来の国民国家の範囲を超えて、中東にジハディズム、すなわち、イスラム聖戦という名目の下にテロ的手段を使ってイスラム共同体をつくろうとしています。主観的にはそのように彼らは主張をしておりますが、その実はすこぶるゆがみ、そして、イスラム的に見ても、ある部分が非常に極端に誇張された犯罪の集団であるということが、最近ますますあらわになっています。
こうしたイスラム国に対して、オバマ大統領は、ヨーロッパとの協力の下、また、ロシアの理解を求めながら、体系的にイスラム国の力を奪うことや、彼らが今支配しているシリアとイラクの地域を減らしていくこと、そして最終的には、そうしたイスラム国というテロの集団を打ち破ることを宣言しました。
このイスラム国という不思議な名前を持っている集団は、もともと「イラクとシリアのイスラム国」という名前で出発しました。2003年以来イラクで活発になり、2011年以来シリアで活動した集団です。これについては、以前も少し触れる機会がありましたが、今日は、このイスラム国がアメリカと正面から対決するという新しい国際情勢にかんがみて、最新の情勢について触れてみたいと思います。
イスラム国は、アルカイダと違いまして、西欧の首都、例えば、ワシントン、ひいては、ニューヨーク、ロンドン、パリといった地域において、正面から、あるいは、ひそかにテロや軍事攻撃をかけたということはありません。9・11のようなことをしたことはないのです。しかしながら、それではなぜ、イスラム国に対してアメリカやヨーロッパが軍事攻撃に出ようとしているのでしょうか。また、なぜアメリカは自らの軍である米軍の単独攻撃ではなく、軍事作戦で他の国との同盟を求めているのでしょうか。今日は、この理由について少し考えてみたいと思います。
●背景その1:国際石油資本の利益・利害を脅かし、中東のバランスを壊し始めた
第1に、アメリカやヨーロッパ、特にアメリカによるイスラム国に対する軍事作戦の一番の理由は、イラクとシリアにおける石油生産、あるいは、石油の市場、さらに価格を、このイスラム国が事実上コントロールするような状態になってきているということが大きいと思います。イスラム国というこの集団にして国家は、国際石油会社、国際石油資本の利益や利害を脅かし、中東地域の現在のバランスを壊し始めています。
困ったことに、このイスラム国は、石油を密輸するという手段で資金を獲得しています。今ささやかれているのはトルコとヨルダンの石油密輸業者で、イスラム国は彼らを通して1バレル当たり25ドル、そして、大胆なことに、石油輸送船であるタンカー1隻につき、だいたい1万ドルから1万2000ドルで売っているという情報が、トルコから入ってきています。
そして、イスラエル筋の情報によれば、イスラム国は1日におおよそ200万ドルを稼いでいるという観測があります。これらが現在のイスラム国の軍事作戦やテロ活動の財政的な基盤になっているという観測が、もっぱらであります。
さて、少し回顧しますと、本年2014年6月10日に、イスラム国はイラクで第2番目の都市であるモスルを占領しました。その後、イラクの3分の1にほぼ匹敵する地域を占領し押さえたあと、石油価格は急激に低落しました。石油の過剰、そして、現在の世界経済の限界的な成長という状況もありますが、石油価格が中東において低落しているという現象は、実はこのイスラム国の存在によって説明される部分が多いのです。
ブレント原油価格は、6月10日の時点では109.80ドルでありましたが、つい最近の9月16日の数値を見ますと、1バレル当たり99.81ドルになりました。すなわち、6月のおおむね110ドルから、現在では99ドルに下がり、100ドルを切ったということになりますが、この石油価格が2013年6月以来、初めて100ドル以下になったということに注目しておきたいと思います。イスラム国がイラクにおける石油生産や石油市場を押さえ、そして、管理する前には、おおよそ117ドルでありましたから、昨今のブレント原油価格の低下は、非常に目立つ点であります。
こうしたことに対して、世界経済に対して大きな影響力を持つこの石油資本を庇護する米欧としては、これを見過ごすことができなくなってきたということかと思います。
●背景その2:中東の石油と地域の安全保障の要・サウジを明白に脅かし始めている
第2には、このイスラ...