●答えのない時代の目利きの重要性
―― 「目利き」というのは、すごい抵抗を受けて大変だと思います。でも、実は目利きはものすごく大事で、ある意味よく見えないものが見えるという目利きの人たちを集めておかないと、例えばお金だけ湯水のように使うけれどもアウトプットは少ししかないということになりますよね。
先般、レアメタルやチタンの研究をしている岡部徹先生(東京大学副学長で生産技術研究所教授)が「チタン産業には、たまたま自分たちのところに目利きの人がいて、それで10年間のあいだに何度も業界がつぶれそうになったけれども、その業界自体が救われた」とおっしゃっていたんです。
今までは答えがある時代で、どこかで成功した事例を持ってきて当てはめるという、途上国の開発型の経済だったらいけたけれども、これからは答えがない時代なので、目利きがすごく重要になりますよね。
柳川 そうですね。答えがない中で、何がより答えに近いのか。何が本来、力を入れるべきところなのかということは、その専門家であったり、正しいというか、より知識を持っているという人の判断に頼らざるを得ないと思うんですね。それが、おっしゃるように目利きということだと思います。
すごく難しいけど重要なポイントは、そこはある種の民主的なプロセスで決めちゃいけないということです。そこはもう目利きに任せるしかない。そこを、よく知らない人からすると、「なんでそんなところがいいと思うんですか」というようなことになるんです。
だけれども、だからこそある種の民主的な意思決定と目利きの判断力の活用には、相矛盾するところがあるんです。
―― そうでしょうね。
柳川 結局、われわれが分かってきたのは、民主的な意思決定は大事だけれども、全てをそれでやってしまうと、結局十分な情報と判断力を持っていない人の大多数が賛成したものしか実行できないということになって、本当に伸びていくものや本当にすごいものをうまくピックアップできないという問題が起きることです。
これが、ある種そういう全体の判断を重視するときの課題で、これを乗り越えていかないと、いいものは選び出せないし、いいものに投資もできない。そうすると、目利きと呼ばれているような人の判断をきちっと使っていくことを考えるべきだという方向に行くことになる。そこで、その人たちにしっかり判断...