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「悠々自適」は定年を正当化するための神話にすぎない

『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(2)60歳は折り返し地点

出口治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長/学校法人立命館副総長・理事
情報・テキスト
日本では定年を迎えると、「よく頑張ったから、もうゆっくりしてください」「これからは悠々自適で」「毎日が日曜日、満喫して」などといわれることが多い。それは定年を迎えた人間を「社会」や「労働」から切り離そうとする言説で、医師によると、これこそが「寝たきり老人」を大量に生んでいるという。(全7話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:15
収録日:2020/06/30
追加日:2020/08/08
キーワード:
≪全文≫

●60歳は人生マラソンの「折り返し地点」


出口 また、人間は成長が遅い動物です。日本の大学進学率は50パーセントちょっとで、半分は高卒で仕事に加わりますから、平均すれば日本人は20歳で社会に出るわけです。それまでは親に養ってもらっていますから、「人生100年」と考えると、一人で生きて行く期間は80年あります。その真ん中はいつかといえば60歳でしょう。だから60歳は、マラソンでいえば「折り返し地点」なのです。まだ半分ある。

―― まだ半分ですね。

出口 それなのに定年で、「ご苦労さん」はおかしいでしょう。

―― おっしゃる通りですね。

出口 だから自然に考えたら、定年などという制度はやめるべきです。

 2017年1月だったと思いますが、日本老年学会と日本老年医学会が高齢者の定義を65歳から75歳に変更するよう提言しました。平たくいえば「今の75歳は、昔の65歳と相撲を取っても負けへんで」ということです。

 つまり、栄養状態が良くなり、みんなが健康に留意するようになったので、それぐらい体力があるということを専門家が発表して、生産年齢人口を20歳から75歳に変えたらどうかと提言をしているわけです。いまだに15歳から64歳という生産年齢人口は、どう考えてもおかしいでしょう。今や15歳で働く人など、ほとんどいませんからね。

―― そうですね。おっしゃる通りです。


●人生を楽しむための前提条件は健康寿命を延ばすこと


出口 そういう当たり前の社会を実現するために、定年はまずやめなければいけない。定年があるがゆえに、いろいろな可能性が失われていると思います。

 これもお医者様に聞いた話ですが、日本は世界で一番といっていいほど高齢化が進んでいる超高齢社会ですね。でも、「高齢化が進む」といえば、みんなが暗いイメージになる。それは違う、と僕は思うのです。

 僕は歴史おたくですから、秦の始皇帝について話してみましょう。秦の始皇帝という偉大なリーダーがいて、今の中国の仕組みをつくった人ですが、彼が最後に追い求めたのは不老長寿でした。だから、世界で一番高齢化が進んでいる日本は、始皇帝の夢を実現しつつあるわけです。素晴らしいことなのです。

出口 ただ、問題は、寝たきりでは人生を楽しめないことです。これについては、『欧米に寝たきり老人はいない - 自分で決める人生最後の医療』(宮本顕二著、宮本礼子著)という名著が中央公論新社から出ています。寝たきりで人生が楽しいはずがないでしょう?

―― おっしゃる通りですね。

出口 始皇帝の夢を実現し、人生を楽しむためには、寝たきりにならないこと、つまり健康寿命を延ばすことが前提条件です。僕はのべ50人ぐらいのお医者様に「どうすれば健康寿命が延びますか」と聞いて回ったことがあります。全員の答えが「働くこと」でした。


●「定年したらゆっくり休んで」を赤裸々に翻訳すると?


―― やはりそれは、働くことによっていろいろな刺激が得られるから、ということなのでしょうか。

出口 ええ。「俺は毎日ジョギングしてるから、大丈夫やで」という人がいたりしますが、お医者様は一笑に付します。雨が降ったらジョギングはやめます、と。そうですよね。

―― そうですね。だいたいお休みにする方が多いと思いますね。

出口 でも、仕事は雨が降っても勝手に休めないでしょう。

―― 行きたくないと思っても行かざるを得ないものです。

出口 約束があったり、締切があったりする。仕事をするということは、足腰を鍛えるだけではなく、頭も使うわけです。

 これもお医者様に聞いた話ですが、あるお嬢さんが定年を迎えたお父様、お母様に「今まで頑張って働いてくれてありがとう。私たちを育ててくれてありがとう。これからは、お父さん、お母さん、もう働かなくていいよ。私たちが面倒を見るから、散歩でも旅行でも好きなことをして、のんびり暮らしてね」といいました。すごく親孝行なお嬢さんですよね。

―― そうですね。一般的には「なんて素晴らしいお嬢様」ということになりますね。

出口 でも、お医者様にいわせたら、これを赤裸々に翻訳すると、「お父さん、お母さん、早く寝たきりになってね」になるのです。


●83歳の運転手が実践する「遊ぶために働く」人生


出口 僕はなにも、年を取っても社会のために働けといっているわけではありません。楽しい人生を送るためには、寝たきりはいやだよね、遊ぶためにこそ働かなければ、人生は楽しめない。

 遊びたいために働くのですよ。あるときタクシーに乗ったら、たいへん高齢の運転手さんでした。恐る恐る「おいくつですか」と訊いてみた。「83ですわ」とおっしゃる。「ずいぶん頑張って働かれているんですね」といったら、「遊ぶためです」とはっきりおっしゃいました。

 「ちゃんと年金はもらっ...
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