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日本の転勤はおかしい…非人間的な制度の最たるものだ

『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(4)「適用拡大」で貧困老人をなくす

出口治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長/学校法人立命館副総長・理事
情報・テキスト
「一括採用、終身雇用、年功序列、定年」という労働慣行は、戦後70年以上にわたり日本の大企業の主流であったが、その中に存在する非人間的な制度に、われわれは気づけなくなっているのではないだろうか。その一つが「転勤」である。それはどういうことなのか。 そこに労働力不足という問題があるなら、進めるべきは労働の流動化である。そのために一番必要なセーフティネットは、「適用拡大」である。(全7話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:56
収録日:2020/06/30
追加日:2020/08/22
タグ:
≪全文≫

●「転勤」ほど非人間的な制度はない


出口 同じように非人間的な制度は日本社会に山ほどあります。その最たるものが転勤です。

―― これも、先生がこの本(『還暦からの底力』)にお書きになっている非常に重要なメッセージですね。

出口 転勤自由の「総合職」が一番上だという歪んだ考え方が、日本社会に広く浸透していますが、「転勤」ほど非人間的な制度はありません。

 まず上司は、自分の部下は家へは寝るだけのために帰るものと思っているわけです。でも、その社員は、地域のサッカーチームの名コーチで、週末には子どもたちに慕われているかもしれない。その絆を断ち切るわけです。あるいはパートナーの人生を一切考えていない。「どうせ専業主婦(夫)に決まっているから、黙ってついてくるやろ」。あるいは「文句をいうんだったら、単身赴任したらええ」。

 こんなひどい制度はありません。これも、「終身雇用」という歪んだ制度の中で一生働くのであれば、いろいろな場所を見ておいたほうがいいかもしれないというだけのことの名残ですよね。

 グローバルには、転勤などありません。転勤するのは希望者だけです。もちろん経営者は例外です。自分で好き好んで役員をやっていたら、いろいろな事業所がある中で、「海外の事業所を見てくれ」といわれたら、望んで役員になった以上は行くしかない。それが当たり前なのに、日本では転勤が横行している。おかしいですよね。

―― そういう、皆さんが当たり前だと思ってしまっている考え方や労働慣行を、この機会に変えていかなければいけないというところですね。

出口 はい。でも、それは世界共通の形に向かうことです。

―― まさに日本の常識が世界の非常識というところですね。

出口 はい。しかも、新型コロナの影響でテレワークができることが分かったので、別に転勤しなくてもいいですよね。

―― おっしゃる通りですね。


●ガラパゴス的な労働慣行がもたらすもの


出口 ある大企業の人事担当役員と飲んでいる時にこの話をしたら、「札幌とか福岡であれば、希望者は山ほどいます。でも、過疎地だったら希望者はいません。転勤は必要ですよ」と反論したので、「おまえは、それほどアホか。もう飲むのはやめるで」といいました。

 過疎地がなぜ困っているかといえば、仕事が不足しているからでしょう。大企業が過疎地で中途採用をしたら、評判は一気に上がる。しかも、地域の人はその地域のことをよく知っているから、東京の本社から何も知らない人を送るよりはるかに戦力になるでしょう。

―― そうですね。地域の人のネットワークがあるでしょうから、即活躍できる可能性がありますね。

出口 ええ。「そんなことも分からへんのか」といって彼を責めたのです。戦後にできた製造業の工場モデルをベースにして、人口の増加と高度成長を前提にした、ガラパゴス的な労働慣行はやめなければならないのです。

―― そうですね。まず企業の現場で、労働慣行なり働き方を変えていくのとともに、日本の社会設計自体も変えていかないと、間尺に合わないところがいろいろ出てきそうです。

出口 はい。

―― 例えば労働問題ですと、今の企業が、先ほど言われたラーメン屋さんのように、業績が悪くなったから人のクビを切れるかというと、今の日本の法律の体系の中ではかなり厳しいことになっています。

出口 でも、それはラーメン屋さんや中小企業はやっていることです。

―― そうですね。おっしゃる通りです。

出口 やっていないのはほとんど大企業だけですよ。

 こういう歪んだことをやめなければいけない。しかも、今はものすごい労働力不足ですから、そうしても別に大丈夫なわけです。

―― おっしゃる通りですね。


●下流老人・老後の貧困問題を抑制する「厚生年金の適用拡大」


出口 だから、労働の流動化ということをもっとやっていかなければいけない。そのために一番必要なセーフティネットは、適用拡大ですね。

―― 厚生年金の適用拡大ですね。

出口 はい。日本の年金は国民年金と厚生年金の二つから成り立っていますが、国民年金は毎月6、7万円で、厚生年金は20万円。なぜこんなに差があるかといえば、国民年金は自営業者の年金だからです。簡単にいえば、八百屋のおじさんは年を取っても店番ができて、お小遣いがもらえる。だから6、7万円で大丈夫だろう。でも、雇われている人(被用者)はそう簡単に店番はできないから、20万円必要だという設計になっているわけです。

 ところが日本では、雇われている人の中で一番力の弱いパートやアルバイトが全部、国民年金に追いやられています。下流老人や老後の貧困というのは、ここに問題の根っ子があります。

 ドイツのように、被用者はパートやアルバイトであっても、国民年金で...
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