●「転勤」ほど非人間的な制度はない
出口 同じように非人間的な制度は日本社会に山ほどあります。その最たるものが転勤です。
―― これも、先生がこの本(『還暦からの底力』)にお書きになっている非常に重要なメッセージですね。
出口 転勤自由の「総合職」が一番上だという歪んだ考え方が、日本社会に広く浸透していますが、「転勤」ほど非人間的な制度はありません。
まず上司は、自分の部下は家へは寝るだけのために帰るものと思っているわけです。でも、その社員は、地域のサッカーチームの名コーチで、週末には子どもたちに慕われているかもしれない。その絆を断ち切るわけです。あるいはパートナーの人生を一切考えていない。「どうせ専業主婦(夫)に決まっているから、黙ってついてくるやろ」。あるいは「文句をいうんだったら、単身赴任したらええ」。
こんなひどい制度はありません。これも、「終身雇用」という歪んだ制度の中で一生働くのであれば、いろいろな場所を見ておいたほうがいいかもしれないというだけのことの名残ですよね。
グローバルには、転勤などありません。転勤するのは希望者だけです。もちろん経営者は例外です。自分で好き好んで役員をやっていたら、いろいろな事業所がある中で、「海外の事業所を見てくれ」といわれたら、望んで役員になった以上は行くしかない。それが当たり前なのに、日本では転勤が横行している。おかしいですよね。
―― そういう、皆さんが当たり前だと思ってしまっている考え方や労働慣行を、この機会に変えていかなければいけないというところですね。
出口 はい。でも、それは世界共通の形に向かうことです。
―― まさに日本の常識が世界の非常識というところですね。
出口 はい。しかも、新型コロナの影響でテレワークができることが分かったので、別に転勤しなくてもいいですよね。
―― おっしゃる通りですね。
●ガラパゴス的な労働慣行がもたらすもの
出口 ある大企業の人事担当役員と飲んでいる時にこの話をしたら、「札幌とか福岡であれば、希望者は山ほどいます。でも、過疎地だったら希望者はいません。転勤は必要ですよ」と反論したので、「おまえは、それほどアホか。もう飲むのはやめるで」といいました。
過疎地がなぜ困っているかといえば、仕事が不足しているからでしょう。大企業が過疎地で中途採用を...