●高齢者が若者に「肩車」する社会保障の限界
―― 先生がおっしゃっている非常に重要な発想の転換だと思うのが、「ヤング・サポーティング・オールド」(若者が高齢者をサポートする)社会から、「オール・サポーティング・オール」(全ての人が全ての人をサポートする)社会にしないと、もはや成り立たないということです。
政府などが最近、よく出してくるのは、これまで20人なり10人なりで1人を支えていたのが、3人に1人になり、やがて肩車になっていくということで、こんな時代は、きついですという話です。
出口 人口が増えているときは若者10人で高齢者1人を支えるわけですから、それでいいわけです。働いている10人の若者から所得税を集めて、それで1人の高齢者に敬老パスをあげればいい。でも、肩車社会になったら、若者と高齢者のウエイトが1:1に近くなるわけです。そうなると、働いている若者は2人分払わないといけなくなる。
―― そうですね。
出口 10人で1人を養うのだったら、なんとか胴上げできますよね。でも、1:1で胴上げしろというのはしんどいでしょう。
―― それは大変ですね。
出口 そこで、働いている・いないにかかわらず、若者も高齢者も税金を払うべきだと考えると、ほぼ自動的に消費税になるわけです。所得税から消費税に変わるのは、人口構成の変化がベースになっているので、高齢化の進んだヨーロッパの国々はほぼ全ての国が消費税を採用しています。こういう当たり前のことを考えずに、「所得税は累進性がある。消費税はフラットだから貧しい人に厳しい」などといわれる。
―― そういう議論はよくなされますね。
出口 ほんとに全体を見ない愚かな議論です。
●「データ」をベースに自分の頭で考える
出口 消費税のほうが高齢化社会にとってはるかに公平だということは、誰でも分かります。今の若者の不安は、やはり肩車がいやだということです。
―― そうですね。今の若い方からは、「自分たちは年金の原資を取られるけれども、もらえることはないだろう。結局出し損ではないか」などという声も聞かれています。先生の言われる「オール・サポーティング・オール」に変えていけば、まさにその不安がなくなっていくということですね。
出口 だって年齢フリーで考えたら、若者と高齢者は対立しないわけです。
―― そうですね。まさに年齢フリーですから。
出口 年齢を見ないで、みんなが所得に応じて(使った分の消費税を)払えばいいわけです。「消費税は貧しい人に厳しい」というのは、僕は嘘だと思っています。
例えば、僕は今APU(立命館アジア太平洋大学)にいて、山の上の大学ですから、ご飯を食べるところは学食1か所しかありません。毎日そこでランチを食べていますが、だいたい300円から400円です。500円を超えたら、レジのおばさんに「出口さん、今日は豪勢ですね」といわれるぐらいです。たまに東京に行って、デパートの食堂などを見てみると、2000円ぐらいの豪華なランチを食べている人が多いですよね。1回のランチで、僕の4~5倍もの税金を払っていることになるわけです。
―― そうですね。
出口 だから、やはり社会常識を捨てなければいけません。自分の頭できちんと「データ」をベースに考える。これは「エビデンス」といってもいいですし、「数字、ファクト、ロジック」といってもいいですけれど、それらをベースにして、きちんと物事を考えなければいけないと思います。
●全体を見つつ、「時間軸」を分けて考えること
―― お話をうかがってきて思ったのが、例えば消費税なら消費税、働き方なら働き方、年金なら年金と、パーツ、パーツを見るのではなくて、やはり歴史観と全体感を持って捉えていくことが非常に重要ですね。
出口 社会自体は整合していますからね。部分最適の組み合わせが全体最適になるわけではないので、全体を見てうまくいくような仕組みを考えなければいけません。
―― おっしゃる通りですね。
出口 それから、物事を考えるときには、全体を見るということに加えて、時間軸を分ける考え方がものすごく大切です。
―― 時間軸を分ける、と。
出口 例えば今回のコロナ禍で、秋入学の話がありました。僕は秋入学に大賛成です。今一番不安に思っているのは、2カ月も3カ月も満足に授業が受けられない高3でしょう。日本では人生で18歳のときの大学入学試験がすごく大きいウエイトを占めていますからね。
―― 大きいですね。その後の人生を左右します。
出口 一番不安になっているのが高3であることが分かれば、政府がいうべきは、「心配しなくていい。全国の大学に秋入学を実施させるから、君たちには春と秋と2回受験チャンスがある。焦らなくていい」ということです。
秋入学を実施しない大学にはその分交付金を減額すると...