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10分でわかる「日本企業・2つの失敗」

日本企業の弱点と人材不足の克服へ(1)膠着する日本経済の深層

西山圭太
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/元・経済産業省商務情報政策局長
情報・テキスト
日本経済はこの20~30年行き詰まりの状態にある。理由としては、会社の多角化によって生まれた各事業部の規模が小さすぎることが挙げられる。また、「技術があればいい」というマーケット軽視の姿勢も理由の一つだ。日本と業態などが似ているドイツの利益率が高いのは、例えば1000人の顧客の意見を10や50に集約化した製品をつくるからだという。これはデジタルでも必要な発想で、世界初の卓上計算機をつくったビジコンにはそれがなく、逆にそれがあったインテルは、ビジコンの技術をもとに世界中で使われる「インテル4004」をつくった。(全8話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:12
収録日:2020/10/28
追加日:2020/12/27
≪全文≫

●「ビジネススケールが問われる時代」に対応できていない


―― 西山さんは、歴史や哲学など実務とは別枠のバックボーンを持っていますね。

西山 自分で意識したわけではないですが、結果的にそうなっています。私の話は、どこかの本に書いてあるというものではありません。こういう話をする人は少ないかもしれませんが、そういう話だと思って聞いてください。世の中で言われていることを紹介するために来たわけではありませんから。

―― 日本はこの20~30年ずっと行き詰っています。その過程を西山さんは、経済産業省に入って以後、つぶさに見てこられました。

西山 つぶさかどうか分かりませんが、時代的には見ています。

―― 本来的に、社会全体を動かすOS(基本的なソフトウェア)がもう合わなくなってきている。それなのに、そのOSの上で育ったトップの人たちは、変わると自分たちが不要になるから変えたくない。そんな構造に今なっていて、それがあらゆる場所で連鎖のごとく起きているのではないでしょうか。

 なぜこんな社会になってしまったのか。このあたりから「西山独自理論」をお話しいただけますか。

西山 いくつかあると思います。一つは、よく言われる「総合電機」的な話です。同じ会社の中でいくつもの部門を抱え、経営の注意がそれぞれの事業部に行き渡らない。事実上、その事業部門が独立する形になっている。すると独立した事業部門は、その事業部門を残すこと、潰されないことを至上目的にしてしまう。

 典型的なのは、役員会です。それぞれの事業部門の代表者が座り、会社全体はどうでもいいと思っている。極端にいえば自分の事業部門に不利なことが決定しないようにするために参加している。

 いろいろな会社がフルセットで持っていた、昔流にいえば多角化していた中で、1990年頃いきなり冷戦が終わり、いわゆるグローバル化が起こった。そうなると、一つ一つのビジネスのスケールが問われるようになります。それぞれの会社が持っている、たくさんの小ぶり、あるいは中くらいの事業部門で戦おうとしても、グローバル規模の競争には勝てません。

 にもかかわらず、役員会でそれを議論しようとすると、「まさかうちの部門をやめるのではないでしょうね」といった話になり、その点ではみんなの利害が一致するので、どれもやめない。そんなことになっていて、これが一つです。


●「一品物」「特注品」ばかりつくるという問題


西山 2番目は、ひと言でいうと「マーケティングを軽視する」ということです。

 すごく強い言葉でいうと、「技術があればいいんだ」みたいなことになっています。経済産業省で「中小企業300選」といったものを出していて、その試み自身はすごくいいと思います。ただ役所時代からずっと文句を言っていたのは、基本的に技術の話だけしか書いていないことです。もちろん技術は大事ですが、技術だけ良くて儲かることはありません。つまり、それだけでビジネスとして成り立つものはないのです。

 当時、ドイツ企業と比較したことがあります。日本とドイツは、やっている業種・業態が似ています。製造業が多く、B to Bが中心。ところがある時期から、圧倒的にドイツのほうが利益率が高いのです。

―― なるほど。

西山 なぜかというと、ギリギリの標準化をドイツ企業はするのです。当時、日本の経営者の方にこの話をしたとき、彼らがどう言ったかというと「確かに日本はマーケティングを軽視している」「顧客発ではない」と。

 実は日本の産業は、ちょっと乱暴な言い方ですが「できちゃった製造業」なのです。例えば、製品ができたので、経営者に「これ、どうしてできたんですか?」と聞くと、「うちの技術を駆使したら、できちゃったんです」と答える。

 でも、「できちゃった」ではダメなんじゃないでしょうか。ビジネスとは、そういうものではなく、お客さんがあって、買う人がいるからつくるのです。

 ところが、「技術を追求した結果、できるのが素晴らしいもの」という考えが、かなり長いあいだ支配していた。これでは結果的にスケールを取れないし、当然儲からないという悪循環に入っていった。

 その時に、お客さん目線、少し古い言葉でいうと「マーケット・イン(ニーズ重視)」とか「プロダクト・アウト(作り手重視)」について尋ねると、経営者の方は「いやいや、お客さんの意見はもちろん聞いています」と言うのですが、そこに大きな誤解があり、ドイツ企業と日本企業の決定的な差があるのです。

 ドイツ企業ももちろんお客さんの意見を聞きます。ただし、仮に1000人のお客さんがいたとして、1000人のお客さんの意見を徹底的に聞くけれど、そこで1000種類つくることはしません。

―― なるほど。

西山 1000人のお客さんの意見を、ドイツ的にいえば「...
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