●トヨタ生産方式のヒントはアメリカのスーパーマーケットにあった
―― これは経営者人材を養成しなかったことでもありますが、日本は抽象化や普遍化が極めて苦手です。「アウフヘーベンって何のこと?」という感じになる。デジタルの時代で勝っていくためには、同じものを見ても抽象化・普遍化して、横展開できる経営者人材が必要です。
西山 そうです。
―― いくら現場が強くても、下士官以下が強かった戦前の日本軍と同じです。勝てません、今の時代は。
西山 だからある種、現場で構わないので、現場を抽象化してみる。よく言われるのが、トヨタ生産方式をつくられた大野(耐一)さんの例です。ご本人はアメリカの自動車産業にヒントがあるかと思って視察に行かれたのですが、何のヒントもなかった。何にヒントを得たかというと、アメリカのスーパーマーケットの仕入れ方法です。
これはアウフヘーベンしているわけです。スーパーマーケットと自動車は、抽象化しないかぎり同じものにはなりません。これを「具体で考えろ」と言うと、「アメリカの自動車産業を見てこい」という、ある意味、意味の乏しい話になってしまう。もちろんそういうことをやる人はそれをやってきたと思います。
繰り返しになりますが、特にデジタル化は、それをより進める方向にテクノロジーが向かっています。今まで「こんなものが結びつくとは思わなかった」というものを、つなげようという動きが起こっています。
そうした中、「いや、前よりもさらに極めました」となっても仕方ありません。なかなか容易ではありませんが、そこはとにかくすごく大事な気づきの問題だと思います。
特に問題なのが、みんなで極めていくときです。一人でやっている分にはいいですが、組織で極めていくと、細かいことがだんだん気になり出します。「あいつのあれは、おかしいんじゃないか」といった話になっていく。
そちらに力学が働くと、もう出口がない。もともと狭かったものを、より狭くしようとしていますから。
それを含めて、ぜひ横で見る発想を持ってほしい。その理由の一つは、もう長年言われてきたことですが、流動性が非常に低いことです。自分が経験しているのは、その会社の中のことしかない。
私も役所に入った時から35年間、まったく形状が変わらない建物の中に勤めています。その場合、普通は極める方向に向かいます。同じ建物に毎日出入りし、そこで「この世界とは違う世界があることを気づけ」と言われても、「いや、これしかないけど」となる。日本の場合、それも含めてよほど注意しないと、そこにあるもの以外のことは、考えなくなりがちです。
―― でも、その延長線上でやると、基本的には潰れますよね。明らかに時代に合わないものをつくっていますから。
●技能の足し算ではデジタル人材が完成するものではない
西山 (その思考形態を変える方法を)2つ申し上げます。一つは、デジタル人材への誤解を解くことです。今、日本がデジタルの先進国だと言っている人は、ほとんどいません。デジタルについて意見が違う人でも、そこは合意があります。そこで多くの人がやるのは、個人のスキルとしてデジタルを身につけることです。
それ自身は間違いではないのですが、そこから先で間違えやすいのが、本屋に行って非情に特定されたフィールドの知識を学ぼうとすることです。試験・講座の類の本は、山ほどありますから。
それが悪いわけではないのですが、数を稼いだからデジタル人材になるわけでは決してない。基本的に、先ほど言った「気づき」があった上で、何を自分はしたいかと考える必要があります。モノづくりの技術習得の延長線上で、たくさん技能を身につけて足していくと、デジタル人材が完成するといった発想は、すごくまずいと思います。
●リバースエンジニアリングしてから縦に掘ればいい
西山 もう一つは、デジタル化の中で起こっていることを「リバースエンジニアリング」することです。「新しいものをつくろう」と、格好いいことを考えない。昔の日本は、単純にアメリカの車を持ってきて解体して、つくっていました。これと同じです。
話を単純化すれば、(アメリカの)GAFAや(中国の)BATHがやっていることは何かというと、リバースエンジニアリングです。だから、単純にそれができれば、あとは縦に掘るのはもともと得意なので、掘ればいいのです。これをやらずに掘ると、全然違う方向に掘ることになるのです。それはちょっとまずいと思いますね。
そして、「これをこうすれば、俺たちもできる」と気づくのは、抽象化です。(GAFAもBATHも)違う会社ですから、同じことはもちろんできません。ともかく、この「抽象化」を、今はともかくやらないといけない。
抽象化するには、個々の細かいファ...