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李登輝と松下幸之助に共通していた「自我を越えた目線」

李登輝に学ぶリーダーの神髄(9)自我からの脱却

江口克彦
株式会社江口オフィス代表取締役社長
情報・テキスト
江口氏が李登輝に最後に会ったのは、李登輝が亡くなる7カ月前のことだった。その折、江口氏が「台湾という立派な国をつくられましたね」と言葉をかけると、李登輝は江口氏の顔をじっと見て、「まだまだだよ」と返答したという。そこには、「主権国家として、まだ確実に台湾という国家は成立していない」という切なる思いが込められていた――そう江口氏は語る。国の統治について李登輝の考えの根本にあったのは「自我からの脱却」であった。その点では経営の神様といわれた松下幸之助も同じであった。この偉大なる2人は、自分にとらわれず、いわば神の目線から物事を見つめて、判断していたのである。(全10話中第9話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:09:59
収録日:2020/08/24
追加日:2020/12/23
≪全文≫

●世界中の国から「国家」として認められてこそ


―― その意味では安倍政権になったことは、李登輝さんから見て「日本精神に近い人たちが政治を担ってくれた」という安心感があったのですね。

江口 そうですね。ただ李登輝さんにとって、私が最後に会った日本人だと思います。亡くなったのが(2020年)7月30日で、その7カ月前の(2019年)12月24日に会っています。その前の1年間は、誰にも会っていませんから。

「『会う』と言っていますが、江口先生が来られても当日の気分でどう変わるか分かりません。それは覚悟しておいてください」と言われ、それを承知で行ったのです。すると2階から車椅子に乗ってエレベーターで降りてきて、ドアが開いた途端、「江口さん、よく来てくれたねえ」と。秘書長のほうがびっくりしていました。

 それでいろいろと耳元で話したり、あるいは「今、日本はこうですよ」とか「台湾も蔡英文さんが再選されて良かったですね」といった話をして、「これで一つ階段はのぼったね」と。ただ、「李登輝総統は台湾という立派な国をつくられましたね」と言うと、私の顔をじっと見て、「まだまだだよ」と。

 これが、きちんとした会話の最後の言葉でした。あとは「よく来たね」とか「また来てくださいよ」といった話だけです。

―― すごい人ですね。

江口 「まだまだだよ」とは、どういう意味か。「主権国家として、まだ確実に台湾という国家は成立していない」という意識なんです。世界中の国から、国家として認められる。それで初めて、国家としての証明になる。そこまで成し遂げてこそ、「台湾is台湾」となる。その意味で「まだまだだよ」と言ったと、私は直感的に思いました。

 だから李登輝さんが私に遺した、日本人に託した思いは、「台湾を国家として正式に認めてくれ」という切実さが込められているように感じました。


●松下幸之助との共通点


―― やはり最高指導者は、神と対話しながらやらなければならないのでしょうか。

江口 李登輝という人はとにかく「周囲からの脱却」の次に、「自分からの脱却」でした。自分に囚われず、キリストを拠り所に、神の目線から国の統治を考えた。

―― 自分から脱却したあとですね、問題は。

江口 誰でも自我は目覚めますから、まずは周囲からの脱却。それは自我の芽生えで、誰でもそうです。「親に反抗する」といったところから始まりますが、大抵それだけにとどまる。李登輝さんや松下幸之助さんのすごいところは、自分からも脱却しているのです。自分からの脱却をして神、あるいは松下幸之助さんなら「(宇宙の)根源」となる。根源からの目線で経営をする、神の目線から統治していく。

 自我からの脱却、自我を超えた目線です。そういう意味で、私は幸いにして松下幸之助、李登輝という2人の超一流の偉人に親しく接することができた。その点では自分自身の人生を振り返って、本当に納得いく、満足する人生です。

―― その2人に出会うのは、すごいです。

江口 後にも先にも、台湾で李登輝さんが出てくることはありません。経営者でいうと、少なくともあと100年、200年、松下幸之助さんを超える経営者は出てこない。その2人に私は親しく付き合ってもらえた。

 2人から学んだのは、自主自立です。周囲に甘えない。国に甘えない。政府に甘えない。制度に甘えない。法律に甘えない。そういう考え方を学び、私自身も大学生以降はそういう考え方で生きてきました。

 そして自分を離れ、自我を脱却して、私の場合は松下幸之助の目線、そして李登輝の目線になる。「自我を脱却する」「(台湾の)自主独立」(あるいは「自主自立」)といった信念において、私は李登輝さんや松下幸之助さんとは、横綱とふんどし担ぎ、あるいは序の口の差こそあれ、同じベクトルであったことは非常に幸いしました。

―― 同じベクトルだし、同じ範疇に入っていたところが江口さんのすごいところです。普通の人は、同じ範疇に入れません。

江口 そして(台湾の)自主独立、周囲からの脱却、自分からの脱却の延長線上で李登輝さんの政治を考えたとき、やはり「中国からの脱却」が出てくるのです。
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