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日本企業が一番変えるべきは「縦に深く掘る」発想

日本企業の弱点と人材不足の克服へ(2)「横に切る」発想の欠如

西山圭太
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/元・経済産業省商務情報政策局長
情報・テキスト
インテルの成功は、ニーズを抽象化して、よりスケールがあり、マーケットが広い製品をつくったことにある。ウィンドウズも、一つ一つのパソコン向けではなく、さまざまなパソコンで使えるOSをつくった。これは、さまざまなニーズを抽象化して「横に切る」発想によるもので、「縦に深く極める」ことが得意な日本人には苦手な発想でもある。しかし、「横に切る」発想をもって進めていかない限り、マーケットとして拡大させることは難しい。(全8話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:08:08
収録日:2020/10/28
追加日:2021/01/03
≪全文≫
●変えるべきは「深く縦に掘る」発想

西山 これはビジコンを批判しているのではなく、ビジコンは素晴らしい企業だと思います。ただインテルはアーキテクチャー(論理的構造)で考えたのです。要するにこの1個を動かすのではなく、もっと抽象化して、いろいろなものを動かせるほうがスケールがあるし、マーケットも広い。そういう発想をしたのです。

―― なるほど。

西山 その後も日本企業は、アウフヘーベンしてアーキテクチャーで考えるということがずっとできていない。プロセッサーに続いて、ソフトウェアもそうです。分かりやすくいえば、ウィンドウズです。

 それぞれのメーカーのパソコンを動かすという発想ではなく、パソコンを横に切って、「これさえあればいい」といったことをビル・ゲイツたちは考えた。

 さらにはエンタープライズアーキテクチャーといって、ビジネスモデルでいうと、少し古いですがサン・マイクロシステムズやオラクルなどがそうです。企業のバックオフィス、つまり経理や事務も、多少の違いはあるけれど、横にバサッと切れば、どこも同じだと気づいた。

 それがいよいよ今は、スマート工場や自動走行まで来るようになりました。自動車も工場も、横にバサッと切れば「同じだよね」というところに来ています。

 そこに私なりの危機感があり、もともとものづくりの時代から「総合電機」などいろいろな話があった中、一番変えるべきは「縦に深く掘る」という発想です。もちろんそれをゼロにする必要はなく、これは日本人のすごく特異で大事なアセット(資産)です。とはいえ、それだけでは勝てません。

―― そうですね。

西山 日本の役割分担といっていいか分かりませんが、「横にバサッと切る」ことをしなければならない。単に横に切るのではなく、いかに切ればマーケティングが広く取れ、利益が上がるのかという発想が必要です。

 現実にはそれがなく縦に極めるから、「なんか製品ができちゃいました」となるのです。

―― それは職人芸ですね。


●「抽象化」することに価値がある


西山 今のデジタルやソフトウェアの特徴は、難しいことや複雑なことを実現するだけではなく、それらを楽に簡単に実装できるところにポイントがあります。そういうと日本人は、「複雑で難しいことは日本も得意です」となりますが、ここにも誤解があります。典型的に言えば、江戸時代のからくり人形みたいな話です。

 からくり人形は、確かに現代人から見ても複雑で難しいことができます。問題はあれを楽に簡単につくれないことです。

―― 楽に簡単にできないと量産できないですからね。

西山 そういうことです。スケールにならない。

 月並みな言い方をすれば、「深く極める」ことと「横につなげる」ことは、常に組み合わせです。ただ「不得意なところを直す」という意味で日本の場合、やや誇張して、「横につなげる」をかなり意識しないと、ビジネスや産業にはなりません。

 OSを変えるという意味では、まさにそうです。デジタル化を本当にやるなら、デジタルで起こっている現象に組織を合わせる。さもないとデジタル化を実現することはできません。

 例えばゴルフをやるなら、当然そのクラブが持っている特性に自分が合わせないといけない。それを「いや、そんなことは関係ない。俺にクラブを合わせろ」と言ったのでは、もう議論になりません。デジタルも同じで、デジタルの特性に合わせてこちらが動かないと、生かしようがありません。

 それを簡単にいえば、縦に深く極めるだけでなく、特に日本が不得意なほうからいえば「横につなげる」ということで、先ほど申し上げた通り、「抽象化する」ということなのです。目の前に起きている具体的なことだけを処理しようとすると、先ほどのようになってしまうわけです。ビジコンの卓上計算機だけを、もっと良くしようというアプローチではなく、他にも同じようなものを思い浮かべて、それらを解決していくのが抽象化です。ここに価値が出てくるわけで、これができるかどうかです。


●横に切れば縦の問題を解くことができる


西山 私は専門家ではないのですが、たぶんそうではないかなと思うのはとても単純なことです。最初にコンピュータに近いものを思いついたチューリングやフォン・ノイマンたちも、単純なことを言っています。当時コンピュータはまだありませんでしたが、発想としてはプログラムを記録した「テープ」、それを読む「リーダー」、読み込まれたものを計算する、今で言う「CPU」の3つの部品があればできると言いました。

―― なるほど。

西山 そう聞くと、例えば車は「ボディ」と「タイヤ」と「エンジン」があればつくれる、というのと同じように聞こえると思います。ただ、彼が言おうとしたのは、そういうことではありませ...
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