●変えるべきは「深く縦に掘る」発想
西山 これはビジコンを批判しているのではなく、ビジコンは素晴らしい企業だと思います。ただインテルはアーキテクチャー(論理的構造)で考えたのです。要するにこの1個を動かすのではなく、もっと抽象化して、いろいろなものを動かせるほうがスケールがあるし、マーケットも広い。そういう発想をしたのです。
―― なるほど。
西山 その後も日本企業は、アウフヘーベンしてアーキテクチャーで考えるということがずっとできていない。プロセッサーに続いて、ソフトウェアもそうです。分かりやすくいえば、ウィンドウズです。
それぞれのメーカーのパソコンを動かすという発想ではなく、パソコンを横に切って、「これさえあればいい」といったことをビル・ゲイツたちは考えた。
さらにはエンタープライズアーキテクチャーといって、ビジネスモデルでいうと、少し古いですがサン・マイクロシステムズやオラクルなどがそうです。企業のバックオフィス、つまり経理や事務も、多少の違いはあるけれど、横にバサッと切れば、どこも同じだと気づいた。
それがいよいよ今は、スマート工場や自動走行まで来るようになりました。自動車も工場も、横にバサッと切れば「同じだよね」というところに来ています。
そこに私なりの危機感があり、もともとものづくりの時代から「総合電機」などいろいろな話があった中、一番変えるべきは「縦に深く掘る」という発想です。もちろんそれをゼロにする必要はなく、これは日本人のすごく特異で大事なアセット(資産)です。とはいえ、それだけでは勝てません。
―― そうですね。
西山 日本の役割分担といっていいか分かりませんが、「横にバサッと切る」ことをしなければならない。単に横に切るのではなく、いかに切ればマーケティングが広く取れ、利益が上がるのかという発想が必要です。
現実にはそれがなく縦に極めるから、「なんか製品ができちゃいました」となるのです。
―― それは職人芸ですね。
●「抽象化」することに価値がある
西山 今のデジタルやソフトウェアの特徴は、難しいことや複雑なことを実現するだけではなく、それらを楽に簡単に実装できるところにポイントがあります。そういうと日本人は、「複雑で難しいことは日本も得意です」となりますが、ここにも誤解があります。典型的に言えば、江戸時代のからくり人形みたいな話です。
からくり人形は、確かに現代人から見ても複雑で難しいことができます。問題はあれを楽に簡単につくれないことです。
―― 楽に簡単にできないと量産できないですからね。
西山 そういうことです。スケールにならない。
月並みな言い方をすれば、「深く極める」ことと「横につなげる」ことは、常に組み合わせです。ただ「不得意なところを直す」という意味で日本の場合、やや誇張して、「横につなげる」をかなり意識しないと、ビジネスや産業にはなりません。
OSを変えるという意味では、まさにそうです。デジタル化を本当にやるなら、デジタルで起こっている現象に組織を合わせる。さもないとデジタル化を実現することはできません。
例えばゴルフをやるなら、当然そのクラブが持っている特性に自分が合わせないといけない。それを「いや、そんなことは関係ない。俺にクラブを合わせろ」と言ったのでは、もう議論になりません。デジタルも同じで、デジタルの特性に合わせてこちらが動かないと、生かしようがありません。
それを簡単にいえば、縦に深く極めるだけでなく、特に日本が不得意なほうからいえば「横につなげる」ということで、先ほど申し上げた通り、「抽象化する」ということなのです。目の前に起きている具体的なことだけを処理しようとすると、先ほどのようになってしまうわけです。ビジコンの卓上計算機だけを、もっと良くしようというアプローチではなく、他にも同じようなものを思い浮かべて、それらを解決していくのが抽象化です。ここに価値が出てくるわけで、これができるかどうかです。
●横に切れば縦の問題を解くことができる
西山 私は専門家ではないのですが、たぶんそうではないかなと思うのはとても単純なことです。最初にコンピュータに近いものを思いついたチューリングやフォン・ノイマンたちも、単純なことを言っています。当時コンピュータはまだありませんでしたが、発想としてはプログラムを記録した「テープ」、それを読む「リーダー」、読み込まれたものを計算する、今で言う「CPU」の3つの部品があればできると言いました。
―― なるほど。
西山 そう聞くと、例えば車は「ボディ」と「タイヤ」と「エンジン」があればつくれる、というのと同じように聞こえると思います。ただ、彼が言おうとしたのは、そういうことではありませ...