米中貿易摩擦の核心と展望
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中国の「国家資本主義・大国意識・強権」を許せぬアメリカ
米中貿易摩擦の核心と展望(2)なぜ利害が衝突するのか
伊藤元重(東京大学名誉教授)
 そもそも、なぜ中国は世界への輸出を増やせたのか? 1つの理由として、中国が「途上国ステータス」を享受できたことがあった。たとえば、先進国は関税率を低くしているが、中国は高い関税で国内産業を守ってきた。また、日本やアメリカの企業が中国で投資しようとすると、地元企業の資本比率が高いかたちの合弁でないと認められないこともあった。ここに来て、「本当にそれでいいのか」という疑問が持たれている。

 中国がWTOに加盟する頃に交渉に関わっていた、当時のUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)のトップが「中国が西側に接近してくれることを期待して、WTOに入れた。グローバルな方向に収斂(しゅうれん)してくれると思っていた。しかし、2006年~2007年頃に、国家資本主義と共産党一党独裁にUターンしはじめてしまった」と語っていた。中国は自国の「壁」を守っている。たとえば、グーグルが中国国内では使えないなど「情報の壁」をつくっている。その一方で、メリットを享受している。アメリカにとっては、中国に現在のような「自由度」を認めながら、WTOの仕組みに乗っかっていくのは難しい。

 しかも中国は、共産党一党独裁国家である。「中国は大国になった。日本を抜き、アメリカもいずれ抜くかもしれない」と思っている中国国民のなかには、弱腰の外交を認めない向きもあろう。そのためもあるのだろうが、コロナ以前から、中国はすでに強権的であった。現在も、インドとの国境でも、南沙諸島でも、新疆ウイグル自治区でも、香港でも、台湾でも、尖閣でも、公然と強権的な態度を取っている。

 しかも、経済と政治が微妙に関わっているのが厄介である。実は、ハイテク産業は貿易摩擦が政治化しやすい。動学的規模の経済性(大規模投資でたくさん作れば作るほど、生産性が安くなるという現象)が起きやすく、一度、そういう規模を獲得してしまうと、他の企業は追随できなくなりがちである。そのため、自国の産業を有利にするために、各国政府が打つ産業政策で、利害の衝突が起きやすい。

 まさにファーウェイの問題は象徴的である。近い将来には決着しないであろう。しかも厄介なことに、安全保障に関わってしまっている。

 イギリスのあるジャーナリストが興味深いことをいっていた。「米中の関係は、当面、抜本的に解決(リゾリューション)するのは無理だろうが、鍵はマネージメントだ。これ以上悪くならないように交渉をするなかで、どのようにマネージメントするかがポイントだ」というのである。

 これは、誰がアメリカ大統領になるかでも違う。トランプは予測不可能で、何をやるかわからない。バイデンになると、もう少し、WTOなどのルールを尊重するようになるだろう。だから、もっと中国に対して、香港問題や人権問題などで攻め込むかもしれないし、日本や欧州にアメリカとの同調を求めてくるかもしれない。だが、そこで中国が折れてくれば、経済と安全保障を分けて議論することができるかもしれない。

 また、バイデン大統領になった場合、大きく変化する可能性があるのは地球環境問題への取り組みである。ここは中国とアメリカでディールする余地がある。人権問題や政治問題はなかなか対応できないが、乱暴な米中摩擦にならないようなメンテナンスはできるかもしれない。

 いずれにせよ「リゾリューションは無理だから、どこまでメンテナンスできるか」ということが大きな注目になろう。(全2話中第2話)

(※本講義は時事テーマで、より早い配信が望ましい内容ですので、講義テキストは配信せず、動画のみを配信いたします)
時間:8分18秒
収録日:2020年10月27日
追加日:2020年11月6日
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