●大きく高い志を抱くことが一番の基本
私の青年塾でもよく、“たかが”とか“しがない”という言い方をする人がおります。「俺は大した学校も出ていないから」「私はしがないサラリーマンだから」「私は取るに足らないような中小企業、零細企業で働いているから」というように言う人がおります。
そのような考え方を私は頭から否定します。そのような考え方をすると、働き方がしがなくなる、卑しくなるのです。どのような零細企業にあっても、どのような学歴であっても、自分の将来に大きく高い志を抱くことが、誇れる人生を形づくっていく一番の基本ではないでしょうか。私は青年塾を、そのように考える若い人を一人でも増やしたいという思いで、人生のテーマとして今日までやってまいりました。
青年塾はもう18期を数えます。全国を五つのブロックに分けて、基本的には各クラス20名単位。全体で90名から100名になります。年間に7回、2泊3日の合宿を行います。この合宿では、ある意味において、松下政経塾で松下幸之助さんが行いたかった教育を行っていると、私は自分で勝手に考えております。松下さんの考え方、育て方を、私は自分のつくった青年塾で一貫して実行していこうと思っております。
言葉を変えれば、松下さん直伝の人づくりを自分なりに追い求めていきたいと思っています。松下政経塾のことをよく知っている人は、「政経塾と非常によく似ている」、あるいは、「松下さんの考え方と瓜二つだ」と言われると思いますが、まさにその通りであります。
松下政経塾で現場の責任者をしていたときに、私に与えられた公案は、松下さんの人づくりへの思いでありました。それを、一生をかけて自分の青年塾で実現したいと思っている次第であります。
●松下電器は、“人間をつくる”会社だ
では、“松下さんの人づくり”とは何か。端的なエピソードを一つご紹介したいと思います。まさに私が青年塾で行おうとしている教育の根本にある話であります。
昭和のはじめ頃、松下電器産業がようやく中小企業として経営の軌道に乗り始めた頃の話であります。ある幹部が、外部の会合に出かけていきました。隣の人と名刺を交換したところ、隣の人が名刺を見ながら、「あなたは松下電器という会社に勤めておられるのですか。何を作っている会社ですか」と質問しました。彼はこのように答えました。「電気製品を作っている会社です」。そして、会社に帰った後、そのことを社長の松下さんに報告いたしました。
「そうか。君、どう答えたんや」と多分聞かれたのでしょう。彼は「電気製品を作っている会社ですときちんと答えておきました」と報告しながら、きっと社長はこう言うだろうと思ったと言います。「そうか。うちの会社は、まだ名前を聞いただけではピンと来てもらえんか。残念やな。社名を聞いたらすぐに何を作っている会社か分かってもらえるように、これからしっかり頑張らないといかんな」。
しかし、返ってきた答えは全く違いました。「君は、松下電器は電気製品を作っている会社だと答えたのか。その答え、僕の考え方と違うな」と答えたのです。報告した人は、電気製品の他に何か作っているのかと考えて、思わず「社長、それはどのような意味ですか」と聞き直しました。
その時の答えは、まさに松下さんの人づくりの根本を表していると、私は理解しております。「君、知識も大事やで。難しいこと、専門的なこと、新しいことをよく知っていることも大事や。あるいは、技術や、いろいろな資格を取ることも、もちろん大事や。しかし、知識も技術も資格も、それは全部、人生の道具に過ぎんやろう。どんな立派な道具をそろえていても、それを使う本人が、人間として立派にならない限りは、絶対にええ仕事はできんのや。松下電器は、電気製品を作る前に、人間をつくる会社や」と、こう答えたのです。
そして、質問した人に「言い直して来い」と言ったそうですから、困ったことでしょう。これは大変有名なエピソードですが、私は、松下さんが政経塾で一番教えたかったのはこのことだと思います。
「政治学も、経済学も、国際政治学も大事や。しかし、どんなに立派な学問を身につけても、知っていることとできることは違うんや。松下政経塾は、知っている人間を育てる学校ではない、できる人を育てるんや」。松下政経塾が育てるのは知識の人ではなく、人格の人。何よりも大事なのは人間性。私は、青年塾では“人間力”と言っています。学力や技術力を超えて、人間が生きていく上で一番大事なのは、人間力です。
●人間力がなければ、政治家としても大成できない
人間力とは、私なりに正確な言い方をすれば、“人間としての魅力”。人間としての魅力を高める努力を根底に置かなければ、どのような知識を学んでも、どのよう...