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経験に差が! 質的に変わった自民党の行く末

55年体制と2012年体制(2)安倍自民党がいま選挙をする理由

ジェラルド・カーティス
政治学者/コロンビア大学名誉教授
情報・テキスト
消費増税の先送り問題は、選挙の本当の狙いではない。唐突なまでのスピード解散の裏には、一体どんな思惑があるのか? 事情通のジェラルド・カーティス氏が、55年体制と2012年体制を比較し、選挙の行方と日本の今後を見通す。(全3話中第2話目)
時間:18:21
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/11
カテゴリー:
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≪全文≫

●戦後の自民党は総合デパート方式で、国民の納得する政治をやってきた


── 日本の政治が一番安定していた55年体制の頃は、自民党の派閥の中で、うまくバランスが取れていましたね。岸信介さん、福田赳夫さんのところから、経済優先の田中角栄さん、竹下登さんのライン、それから大平正芳さんや宮澤喜一さんの宏池会(こうちかい)、さらにもう少しリベラルなところで三木武夫さん、やや右派政権の中曽根康弘さんもいて、バランスが取れていました。その中で野党の声も聞き、例えば公害問題などは柔軟に協調して、それを取り入れ、環境省を新設してしまうというように、知恵がありましたね。日本の昔の中選挙区制度の中では、自民党の中で各派閥の色合いが違いました。一方が右派政権ならば、もう一方は宏池会型、大平さん型のリベラルを目指すというように。

カーティス 少し抽象的な話ですが、理念とイデオロギーが違うのです。

── なるほど。理念とイデオロギーが違う。

カーティス 戦後の自民党という政党は、イデオロギー的には統一していませんでした。右から中道の左まで、岸さんから三木さんまでいたわけです。

 先日、安倍晋三首相が何かの本で、「戦後の自民党は、党結成時の目的を忘れて、何でもかんでも妥協をした」というようなことを書いていました。彼は確か“理念”という言葉を使ったと思うのですが、「憲法改正を行い、より理念の統一された政党になるべきだ」というようなことが書いてありました。

 僕は以前、本にも書いたのですが、戦後の自民党の特徴は、広く国民の考え方を取り入れて、派閥の形で党内で争い、国民が納得する政策をずっとやってきたことだと考えており、それを高く評価しています。

 自民党に理念はあったと思います。それは、日本型資本主義体制、あるいは民主主義というものです。それこそ右から左まで、基本的な理念は共通していて、ある程度はあったと思います。しかし、イデオロギー的にはまとまっていませんでした。ただ、それは良いことなのです。イデオロギーではないから、野党である社会党が何か良いことを言ったときに、自民党がそれを採用して、自分たちの政策にしたりもする。イデオロギッシュな政党になるのは好ましくないと僕は思っているのです。

 昔、田中角栄さんが言っていました。自民党というのは、いわば総合デパートだと。1階に行けばこういう政策があり、2階に上がって行けばまた別の政策があり、そのようにして全部が自民党という総合デパートの中で賄える。それが自民党の強さであって、僕はそれを批判するのではなく、評価していました。

 しかし、今の自民党は、どちらかと言えば、総合デパートではなく、商品をできるだけ一つだけにしようとしているような感じです。要するに、もっとイデオロギー的に統一した政党という印象です。一方で野党は、総合デパートというよりも、破産した中小企業の連中が騒いでいるような感じですね。

── それは日本国民にとって不幸ですよね。


●アベノミクス失速の悪夢が、安倍政権を解散総選挙に駆り立てた


カーティス 一番不幸なのは、アベノミクスがうまくいっていないことです。やはり日本の経済がよくなって、マネーゲームや日銀の政策ばかりではなく、本格的な構造改革が行われて、プライベートセクター(国の経済の民間部門)がより活発に動き、日本経済がよくなってほしいと思います。だからこそ皆、アベノミクスに大きな希望を持っていたのです。希望はまだ完全に捨てられてはいませんが、世論調査を見ていると、だいぶ失われています。

 そういう時に解散して選挙をやるというのは、少し理解に苦しみます。その理由は一つしかありません。「今やらないと、もっと議席は減るだろう」という目論見です。

 安倍さんが政権を取った時、特に1年ほど経った時点で、非常に人気があり、支持率が高くて、外国からも「ジャパン・イズ・バック」という感じで見られていた時期がありました。その頃、当時の安倍さんや菅義偉さんが考えていたのは、次の衆議院議員総選挙を2016年の夏の参院選とダブル、つまり衆参同時選挙にして、そこで衆議院も参議院も3分の2の議席を取り、憲法改正を実現する。そういう夢をおそらく持っていただろうと思います。

 今回、選挙をやることにしたということは、その夢が全くなくなって、悪夢を見るようになったからでしょう。その悪夢とは、こういうことです。今、選挙をやらなければ、来年やらざるを得なくなって、その時に本当に政権が維持できるかどうか分からない。だから今やってしまおう。そうしたら、少なくとも2年、3年は選挙をやらないで済む。そういうことです。

── なるほど。もともとは衆参3分の2ずつ議席を確保して、憲法改正を夢見ていたのでしょうね、それがな...
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