●革新陣営はブレーキ役、自民党にも柔軟性があった55年体制
カーティス 戦後の日本の自民党一党支配体制は、民主主義的だったと思います。その中には、革新陣営には社会党や、またその時は公明党も革新の方だったから、公明党、民社党、あと共産党がいましたが、やはり自民党に対してブレーキをかける役割を果たしていましたし、野党が国民に人気のあることを提案すると、自民党はそれを自分たちの政策にしていましたよね。
―― 取り込んでいましたね。
カーティス 取り込んでいましたから、自民党にはそのような柔軟性もあったのですね。
●3年も政権を担ったのに政権運営を学んでいない民主党
民主党政権になって非常に残念だったのは、3年も政権を担ったにもかかわらず、政権運営とはどういうことか、最初から最後まで分からなかったということです。官僚とどのようにやればいいのかも、最初から最後まで分かりませんでした。野田政権になってから少しよくなりましたが、とにかく官僚の言うことを聞かないで、政治主導で政治家が全部決めるという、何か子どもが政治ごっこをしているような感じでした。ですから、この素人のようなことが日本の政治にとっては本当の悲劇だったし、僕は考えれば考えるほど、民主党政権に対しては見方が厳しくなるのです。
あのような本格的な政権交代は、55年体制でもう50年もなかったので、あまりうまくやれなかったのも無理はないかもしれません。しかし、これは言っても仕方がないけれど、もう少し上手にできたはずだと思いますし、民主党あるいは野党が、あの3年間の経験からどのような教訓を得たのか。
―― 何を学んだのか。
カーティス そう、それが分からないのです。今の野党や民主党の人たちの話を聞いてみても、なぜ駄目だったのか、どうして国民にあんなに拒否されたのか、反省しているのか、もしも政権をまた取ることができたらどのようにやるのかなど、そういう話がなさすぎます。
●今の自民党一党支配は55年体制とは質的に違う
カーティス とにかく、今の自民党一党支配というのは、55年体制と質的に違うのです。
―― 55年体制と質的に違うのですね。
カーティス 全然違うのです。というのは、野党が弱すぎます。要するに、ブレーキ機能が今の野党にはなかなかないし、それに野党がばらばらです。
また、イデオロギーというか、理念もはっきりしていないのです。自民党より右の人たちも結構います。左はいませんが、右ではなくて左でもないならば、どこに立っているのか、どのような理念で政治をやっているのか、ただパワーゲームをやっているだけなのか、はっきりしないのです。これは難しいことですが。
アメリカでも、昔はよく「リベラル」と言っていましたが、民主党の中のリベラルは今、何がリベラルなのか、あるいは、民主党はどのような政党なのかがよく分かりません。先進国では社会も、経済も、何でも非常に複雑化してきていますから、例えば昔のような階級闘争における保守党と労働党など、そのような違いだけの時代ではないので、難しいことは分かりますが、理念なき政党政治というのは、国民が困りますよね。
―― 不幸になりますね。
●野党は自民党の政策批判だけでなく、「自分たちならどうするか」を語るべき
カーティス そういう現状です。政策についても、先ほど申し上げたように、自民党に対しては批判すべきですし、批判すべきところいっぱいあると思うし、アベノミクスは金融政策以外にはまだほとんど効果が出ていないのですから、批判は分かります。しかし、「もしもわれわれが政権を取れたら、まずこのようなことをやります」と少しでも言えばいいのです。これを言わないのは、野党の人たちがまさか自分たちが政権を取れるとは誰も思っていないからです。しかし、思っていなくても、思っているようなふりした方がいいのです。そういう演出は大事なのです。
「誰もが不可能だと思われているかもしれませんが、われわれはそう思いません。政権を取るつもりでこの選挙で戦います」「もうアベノミクスも2年で十分だ」「今度政権を取れば、上手にやります」「できれば自民党の一部の常識的な人たちとも一緒に取り組んで、新しい日本にとっての新しい政治をやります」などと、そういう明るい話をなぜもう少ししないのですかね。政権を取るなどあり得ないことで、そんなことを言えば、笑われたり、「ふざけるな」と言われたりすると思っているから、皆ただ批判するだけなのでしょう。