●「小泉さん」とトモダチ作戦
島田 今日はわれわれが最も尊敬する、そして日本の歴史の中で最も国民に愛されている小泉純一郎さんをお呼びしました。「総理」と呼ぶと「アイムソーリーは駄目だ」と言われているので、今日は「小泉さん」と呼びます。小泉さんをお招きして、われわれがこれから考えなくてはいけない最も重要な問題について、思い切ってお話しいただこうということです。
それはどういうことかというと、他の世界の多くの国もそうですが、特に日本がこれから原発にどう向き合っていったらいいのか、ということです。あれ(核物質)は半減期が何億年ということですから、人類どころか地球が生まれる前からできていた、宇宙の中で最悪の物質です。それは、もともと戦争に使ったのですが、そのうちそれをエネルギーのため、医学のために使い出します。それは良いのですが、今度はその廃棄物その他がすごいことになってきました。ですから、やはり人類のためにも、原発はやめた方が良いのではないかということを、小泉さんはずっと言われているのです。
今日の一番のポイントは「トモダチ作戦」です。皆さんご存じのように、アメリカの海軍の兵士でトモダチ作戦に参加してくれた、2万数千人の兵士がいるのですが、彼らがひどい目に遭っているという話を、小泉さんがお聞きになり、アメリカに行ったら、それは本当のことだったそうです。「これは何だ?」ということで、そのことについて、これから小泉さんにしっかり話していただきますが、人間としてこんなことは許されない、看過できないということで、大変な思いを持って帰ってこられました。われわれはそれを聞いて皆、感動したのです。ただ、感動しているだけではなく、同じ人間として、われわれも一緒になって手を差し伸べて何かすべきではないかという思いです。
それでは小泉さん、ひとつ語ってください。
●原発賛成派から脱原発論者への転身
小泉 小宮山先生、島田先生のお二方と対談するのは今日が初めてですよね。
小宮山 よろしくお願いします。
小泉 知識面での神様的存在である大学の先生と一緒に対談ができるなんて、大変光栄に思っています。
私は総理の時、原発は必要だと思っていました。しかし、2011年3月のあの地震、津波、原発メルトダウンを見て、原発は本当に安全なのか、コストは安いのか、永遠のクリーンエネルギーなのか、今まで原発必要論者が言っていたことを信じて良いのかと思うようになりました。
さて、総理を辞めて時間ができたものですから、今一度よく勉強してみようということで、関連する映画やあの事故の前から「原発は安全ではない」と言っていた人の本を読み始めたのです。その結果、事故の前に推進論者、必要論者が推していた原発を、日本は持つべきではないと考えるようになりました。勉強した範囲内ですが、私もかなり本を読み込みましたし、また「原発は危ない」と主張する人の話も聞いてみました。その結果、「原発はやめた方が良い」という確信を得たのです。
それ以降、講演を頼まれるごとに、「日本はもう原発に依存すべきではない。原発社会を脱しなければいけない」という話をしています。そして、2013年の夏だったでしょうか。世界ではたった一つしかない核のごみ捨て場、核の廃棄物処分場であるフィンランドのオンカロに、原発推進論者と一緒に見学に行きました。
そのことをある記者が聞きつけて、話を聞かせてほしいと言ってきました。毎日新聞のその記者と話して、「風知草(ふうちそう)」(山田孝男氏のコラム)という連載に出したのです。「小泉は原発ゼロ(論者)だ」と。「総理の時は必要だと言っていたのに、総理をやめたら、なぜ原発をゼロにしなければいけないと言っているのか」と驚いた人たちから、いろいろと「講演してほしい」という話が出て、それで一躍、マスコミにも知れ渡ったのです。
今でも、勉強を重ねれば重ねるほど「原発は安全で、コストは一番安くて、永遠のクリーンエネルギーだ」という推進論者、必要論者の3大スローガンは、全部うそだと講演でもインタビューでもはっきりと言っています。しかし、必要論者や学者、あるいは経産省も資源エネルギー庁も、私の言っていることに対して抗議してくることは全くありません。
●総理在任時は「裸の王様」だった
島田 総理をされていた時は、大きなことを決めなければいけないので、随分、いろんな関係者や周辺の人に聞かれたのですね。「原発はどうすべきだ?」と。しかし、誰に聞いてもみんな異口同音に「安全で、安くて、良いんだ」と言っていました。そういう議論でしたね。
小泉 私も勉強不足でしたね。原子力の技術について、ほとんど知らなかったのです。知らない分野は専門家に聞こうというのが私の考え方だから、...