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人口移動は言葉と魅力の問題

「地方創生」に向けて

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
日本の重要な課題の一つである地方問題。800ほどの自治体に消滅可能性があり、地方創生の議論が高まっている。人口問題はその重要なテーマだが、「東京一極集中対地方の衰退」という問題設定は正しくないと曽根泰教氏は指摘する。果たしてその理由は?  地方が抱える問題点を提示しながら、地方創生への方策を提言する。
時間:15:04
収録日:2014/10/09
追加日:2014/12/25
タグ:
≪全文≫

●800ほどの自治体に消滅可能性がある


 日本の重要な課題の一つが、地方の問題であることは確かです。ただ、地方創生という議論の中心部分は、地方の消滅、つまり、20代、30代(20歳―39歳)の女性の人口が急激に減ると800(増田寛也氏は896という)ほどの自治体が消滅する可能性についてです。これは「消滅可能性」の話で、正確な言葉で言えば、「持続可能ではない所が今後増える可能性がある」ということで、「消えてなくなる」という「消滅」の話では多分ありません。もし「消滅」という言葉を使うのであれば、ジャレド・ダイアモンド氏が言うように、実際に消滅してしまったマヤやインカ、あるいは、イースター島などの事例の方が多分正しいのです。ただ、そのような危機感があることはよく分かります。


●「東京一極集中対地方の衰退」という問題設定は正しくない


 その一つの重要なテーマが、人口問題です。人口問題と地方問題が片方にあり、もう片方には東京一極集中論があり、それを皆いまだに議論しているのですが、「東京一極集中対地方の衰退」は、多分正しくない問題設定だと思うのです。

 それはなぜかといいますと、「東京が一極集中で人口を吸収していくから地方の人口が減る」という、言ってみればゼロサム的な世界だということですが、東京が人口を吸収していることは確かですが、東京はブラックホールではありません。

 また、ブラックホールといえばもう一つ、人口は東京に吸収されるけれども、東京の合計特殊出生率は低く、つまり、人口は増えないということです。ですから、「増えない東京に人が行く。だから、日本全体の人口が減る」というロジックは、どこかに間違いがあると思います。

 ごく最近のデータによると、東京の合計特殊出生率を見ると確かに低いのですが、一番低いのは京都の東山区です。つまり、札幌や大阪、京都や福岡などの都市中心部は、実は合計特殊出生率が低いのです。東京都の目黒区や渋谷区もそうです。そういう意味で、東京の合計特殊出生率は先行指標だろうと思いますし、人口動態はとても難しいのです。

 なぜ難しいのかというと、人口移動は、ミクロの、個人の選択だからです。夫婦の選択だったり、家族の選択だったりします。これを止めることができれば簡単です。しかし、女子高校生に、「大学受験で東京に出るのをやめなさい。田舎に残りなさい。田舎の短大に行けば問題が解決します」という説得は可能ですか? ということです。あるいは、地方から東大を受験したいという学生に、「東大はやめなさい。地方の国立大学も十分いいですからそこに行きなさい」と言えるのか? ということです。つまり、東大に相当するような、人を引き付けるだけの国立大学なり私立大学が地方にあればいいけれども、現実はそうではないのです。ここが一つ問題としてあります。

 もう一つは、東京から地方に人が移るように、UターンやIターンをもっとできるようにしましょう、という話です。これも職業選択に関することです。特に、地方に優良な雇用、働き先があるのか。例えば、県庁、電力会社、銀行、地方新聞社というところ以外にいいところがあるか、そこで働きたいと思うかどうかということです。

 つまり、世界で活躍したいと思う地方出身者が雇用先や勤め先を東京に求めるのは、ある意味で当然なのです。ですから、それだけのものを地方にどうやって育てるか。それをせずに、ただ「地方に残りなさい」と言うのは、無理な話です。


●人口移動は言葉と魅力の問題


 そういう意味でいうと、人口移動を止めるという政策は、多分成功しないと思います。人口移動の問題とは、こう考えたらいいのです。戦前からそうなのですが、優秀な人が日本からアメリカなりヨーロッパに留学すると、そこでトレーニングをして、多くの人は日本に帰ってきます。ところが、中国や途上国の人は、アメリカに留学して成功すると、そのままアメリカに居ついてしまいます。よって、この問題は、日本と他の国と少し違うところがあります。

 日本の国内でもこれと非常に似た話があります。地方から東京に出ていった人が、東京に限らず大阪や名古屋もありますけれども、主として東京ですが、例えば官僚などの職業に就くと、そこに居ついてしまうのです。しかし、これは、少し絵が違うのです。日本からアメリカに行って、アメリカで学者や官僚、ビジネスマンになって、そこに居つくというケースは少なくて、多くの人は日本に戻ってくるのです。ところが、国内では、東京に出ていって、東京に居ついてしまうのです。特に優秀な人ほどそうです。ですから、これは絵が違うのではないかということです。

 どこに差があるのかというと、一つは、言葉の問題です。つまり、アメリカで生涯仕事をして、そこに住みつい...
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