●800ほどの自治体に消滅可能性がある
日本の重要な課題の一つが、地方の問題であることは確かです。ただ、地方創生という議論の中心部分は、地方の消滅、つまり、20代、30代(20歳―39歳)の女性の人口が急激に減ると800(増田寛也氏は896という)ほどの自治体が消滅する可能性についてです。これは「消滅可能性」の話で、正確な言葉で言えば、「持続可能ではない所が今後増える可能性がある」ということで、「消えてなくなる」という「消滅」の話では多分ありません。もし「消滅」という言葉を使うのであれば、ジャレド・ダイアモンド氏が言うように、実際に消滅してしまったマヤやインカ、あるいは、イースター島などの事例の方が多分正しいのです。ただ、そのような危機感があることはよく分かります。
●「東京一極集中対地方の衰退」という問題設定は正しくない
その一つの重要なテーマが、人口問題です。人口問題と地方問題が片方にあり、もう片方には東京一極集中論があり、それを皆いまだに議論しているのですが、「東京一極集中対地方の衰退」は、多分正しくない問題設定だと思うのです。
それはなぜかといいますと、「東京が一極集中で人口を吸収していくから地方の人口が減る」という、言ってみればゼロサム的な世界だということですが、東京が人口を吸収していることは確かですが、東京はブラックホールではありません。
また、ブラックホールといえばもう一つ、人口は東京に吸収されるけれども、東京の合計特殊出生率は低く、つまり、人口は増えないということです。ですから、「増えない東京に人が行く。だから、日本全体の人口が減る」というロジックは、どこかに間違いがあると思います。
ごく最近のデータによると、東京の合計特殊出生率を見ると確かに低いのですが、一番低いのは京都の東山区です。つまり、札幌や大阪、京都や福岡などの都市中心部は、実は合計特殊出生率が低いのです。東京都の目黒区や渋谷区もそうです。そういう意味で、東京の合計特殊出生率は先行指標だろうと思いますし、人口動態はとても難しいのです。
なぜ難しいのかというと、人口移動は、ミクロの、個人の選択だからです。夫婦の選択だったり、家族の選択だったりします。これを止めることができれば簡単です。しかし、女子高校生に、「大学受験で東京に出るのをやめなさい。田舎に残りな...