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ECBの量的緩和導入において、気になる不安材料がある

スイスショックとユーロ安(4)スイスショックが為替相場に及ぼす影響

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
本シリーズ最終回は、スイスショックが為替相場に及ぼす影響についてである。まだまだ不確定要素は大きいが、日本の投資家が気にすべきポイントについても、シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏に伺ってみた。(全4話中第4話目)
時間:05:53
収録日:2015/01/23
追加日:2015/01/31
≪全文≫

●軽視できないユーロに与えるスイスショックの影響


 最後になりますが、今回は、スイスショックがユーロに対して及ぼす影響や、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和に踏み切った意味などについて、お話ししていきたいと思います。

 スイスフランは、欧米の投資家にとっては実に頻繁に売買されている通貨です。ところが一方で、日本の投資家にはあまりなじみのない通貨ですし、日本企業の中にも、スイスと直接的な貿易関係のあるところはそう多くありません。ですから、スイスフランのペッグ制度が終了したことによる影響は、日本の投資家にとってあまり重要ではないといえます。

 しかし、その一方で重要なのはユーロに与える影響でしょう。スイス中央銀行(SNB)が従来行ってきたスイスフラン売り・ユーロ買いの介入が今後減少していくことは、ユーロが需給面で一つの支援(買い)材料をなくすことを意味するのです。このような形で、ユーロに影響が出てくることが一つ考えられます。


●多様化の減少から豪ドルなどに下落圧力の可能性


 二つ目は、豪ドルをはじめ、その他の通貨に下落圧力が加わる可能性があることです。これは正式に確認されていないため、市場の中での一般的な見方になりますが、SNBはスイスフランを売ってユーロを買い、買ったユーロの一部を、米ドルや円、英国ポンド、豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドルといった通貨へと多様化してきたと言われています。だとすると、SNBがユーロ買い介入を減らすことは、結果的にユーロを売った後の米ドルや円、英国ポンド、豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドル等の各種通貨への買いを減らすことになります。

 当然のことですが、ドルや円、英国ポンドあたりは市場規模も比較的大きいことから、それに伴う通貨安圧力はそれほど受けることはないでしょう。しかし、豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドルあたりになると、SNBの行ってきた買いがなくなることにより、意外に下落圧力を受けるのではないかという心配があります。


●ECBの量的緩和導入において気になる不安材料


 次に、欧州中央銀行(ECB)が今回導入した量的緩和ですが、これは約1兆ユーロの規模になっています。日本円にすると140兆円から150兆円と、日銀が行っている緩和を上回りかねない状況です。

 基本的には、月々600億ユーロの資産買い入れを行うということで、日本やアメリカよりも出遅れていたECBの量的緩和、バランスシートの拡張策が、ここで図られることになりそうです。

 これには、さまざまな議論があると思いますが、私が気になったのは、今回の決定に至った経緯です。あくまでも報道ベースですが、ドイツ連邦銀行総裁とドイツ出身のECB理事を含む5名が反対票を投じたといわれています。

 今回のECBの量的緩和策導入は、イタリア出身のマリオ・ドラギ総裁主導によるものですが、一枚岩で進められたわけではなさそうで、このあたりがやや不安材料と考えられます。ただし、ユーロ売りの実施について言えば、そのような不安材料は、最終的にはユーロ安の要因につながる可能性を持っていると思います。


●ギリシャ総選挙後のユーロはまだまだ下がる?


 後は、ギリシャの総選挙の結果次第です。これによって、ギリシャからまたさまざまな不安が台頭してくると、やはりユーロ相場は下がる可能性が高いと考えられます。

 ECBの量的緩和に対して、市場では、欧州金利の大幅な低下、欧州株の上昇、ユーロの下落という反応が起こりました。今後ギリシャあたりのさまざまな不確定要因が高まってきてしまうと、欧州の株価は下がるリスクがあるわけですが、その場合においてもユーロに関しては下がる可能性があります。

 要は、ECBの政策がうまくいって、市場全体がハッピーなときも、ユーロは下げ圧力が強まり、ギリシャあたりにからんで市場のセンチメント(心理)が急速に悪化する場合においても、ユーロは下がっていく可能性が高いのです。結局、ヘッジファンドをはじめとした海外投資家が、ユーロ売りポジションを膨らませているのは、それが最終的にうまくいくかどうかは別として、最も合理的な選択肢をとっていると言ってもいいのではないかと思います。
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