●「デザイン思考:発見からの開発」例1――無印良品(MUJI)の「長押」
「無印良品(MUJI)」、会社の名前は良品計画です。あるとき、収納家具プロジェクトが立ち上がりました。ターゲットは若者です。若者の部屋に収納家具を売りつけよう。頭の中ではいろいろ考えていました。若者の部屋は物も多いだろう、でも狭いだろう。だから収納家具というようなものは売れないだろう。だから「収納兼××」、例えば「収納兼座れる」、座れる収納チェストとかはどうだ。そんなことをいろいろ考えていたらしいのです。
でも、そんなことは、ポテンシャルユーザーである若者たちに聞いたら1発で吹き飛びました。そんなもの、置く場所ももうないのだ。椅子はもうあるのだ。座れる収納チェストといわれても、意味がない、と。
こういうプロジェクトのときに必ず調査部隊がいて、その人たちが写真を撮ってきてくれるそうです。ターゲットが若者だったら若者の部屋の写真をいっぱい撮ってきてくれます。そして、みんなで一生懸命観察します。収納、収納、収納と思いながら観察するのです。そうしたら、あるとき、こんなものが目に止まりました。
いわゆる和室、もしくは和室もどきには壁の上のほうに板が張ってありますよね。あれを「長押(なげし)」といいます。構造上は何の意味もありません。ただの装飾です。でも、ちゃんとした長押は少し受けていますよね。なので、典型的にはハンガーが掛かっています。もしくは、家によってはきれいに傘が並んでいることがあったそうです。そこで気がつきました。床はダメだけれど、まだ壁がある。そして長押は収納家具だったのだということに気がつきました。
作った商品は、「長押」という商品でした。商品名「長押」です。ただの板です。でも少しだけ受けています。工夫もあります。だいたい、壁は今どき石膏ボードです。わが家もそうですけれど、その石膏ボードに釘は立ちません。
なので、特殊な専用の固定ピンを開発して、専用のフックで留めるだけでいいのです。3本ギュッと伸びていたり、2本であったりするのですけれど、3本の釘でやるものも、皆さん、見たことがあるかもしれません。あのように力を入れることによって抜けにくいですし、1本あたり1キログラムとか、2キログラムに耐えら...