●難しくて悩ましい後継者選び
―― 経営者として次の人を選ぶとき、セオリーで選ぶのはやはり非常に難しくなっていますね。
小林 非常に難しくなっていますね。ですから、頭の中の7割か8割はいつも後継者を誰にしようかを考えながら、毎日違う人を考えているというのが、まさに率直な思いです。考えが行ったり来たりしていますね。
―― しかし、変数がすごく増えてきていますよね。
小林 まず時代状況の変化が激しいですし、やはり最終的には、まさにサスティナブルな会社を構築して、それに最も強く臨めるリーダーに足る人間を選ぶしかないではないですか。
そこで、私心は一切なくして、そもそも長期的に見たこの会社の方向性や時代とのマッチ、時代感性のある人間で、かつ、そこそこの強いリーダーシップを持ってやれる人を選ぶのは、なかなか難しいですね。いや、自分も含めてそれほど簡単ではないですよ、選ぶのは。
―― 小林社長の場合、東大の大学院にいたときに、イスラエル、そして、さらにイタリアのピサの大学に行かれて、当時の時代の中でまるで違う自分の生き方を、世の中の生き方にならう形ではなく決められてきたと言えると思います。小林社長に時代が追いついてきた感じがするのです。
ですが、これからのリーダーは、やはり早い段階から自分で自分の生き方を決めて、行動まで含めてやっていないと難しいですよね。皆が分かった頃に動いたら、もう事は終わっています。
小林 もう終わっていますよね。でも、逆に自分で決めたことでも成功するかどうか分からないですから。もちろん、動かないことが一番危険だとは思いますが、結局、強いことを二つ三つ持っていて、本当にかたくなにそこを頑張るという人も結果を出していますしね。その辺りを「どちらが良い」というのは、非常に難しいと思います。
●求められる社長のパターンは企業サイズによって異なる
―― しかし、日本の場合は、経営者層をきっちり育ててきたわけでもないですよね。
小林 そう。全く帝王学をやっていませんからね。
それと、ある大きさによって求められる社長のパターンが違ってくると思うのです。単一の種類の事業で1000億の規模を牛耳っていく社長と、1兆円の会社を牛耳るのに合っている人、というようにです。
当社の場合、もう4兆円になりますから、4兆円のホールディングの社長と、5000億や1兆円のそれぞれのオペレーションをやっている事業会社の社長と、要求される特質はやはりまた違うような気がします。
―― サイズによって違いますね。
小林 それでも、しょせん部下は10人ぐらいしかいないのです。日々会って命令を下すのは、5人から10人ではないですか。
―― そうかもしれませんね。
小林 それはサイズが違っても同じだと思います。そうすると、やはり重要なのは、「どれだけそのアイテムが多いか」というようなことになってきます。自分一人ではそれに手は下せないけれども、大きな思想性を持って、あるいは、グローバルに説明責任を果たしながら生きていく。何兆円かの会社は、社会的にそういうことを要求されます。単に儲けるだけではない部分の、いわゆる外とのインタラクションといったものがあるではないですか。
しかし、事業会社はそうではなくて、少々品が悪くても、ただ儲けるのか、損をするのかということだけを考えてもらわなければ困るのです。事業部長レベルは特にそうでしょう。ですから、おのずと舞台や、俳優、キャラクターが違うのです。
そこも考えないと、後継者選びは難しい。あと、上下関係もあるし、年齢の関係もあるとなると、ほとんどぴったりの人を選ぶなど無理なのです。そうすると、もう「えいや!」で決めるしかないですね。難しいです。
●ステージによって、要求される能力も変わってくる
小林 もっと言えば、課長の頃に優秀でも、部長になって駄目になって、役員になったら全く使えない人もいれば、部長までほとんど使いものにならなかったけれども、上になればなるほど、ものの考え方やロジックが必要になりますから、そういう力をめきめきとつけてきて、役員になったら光ってくるという人もいます。やはりステージによって要求されるキャラクター、能力は違うと思います。
―― 役所で課長までは良かったけれど、上になると全然使えないという人もいっぱいいますよね。
小林 そうです。何かものをまとめて、ファンクションとしてきれいに書くなど、ここまでできると課長や部長までは重宝されるけれども、では、自分で発想して人を動かして、それで方向性を決めるとなると、がぜん何もできなくなる人は、やはり社長としては無理ですね。
―― 難しいですよね。
●今や、経営者は多種多様な能力を備えていなければならない時代
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