●チームメンバーのおかげで国際化と自由な動きを両立
―― 前回、お話しされていたような、柔軟性のあるカリキュラムによく切り替えられましたね。
白石 政策研究大学院大学(GRIPS)は新しい大学ですし、このようなことはあまり大きい声では言えないのですが、教授会がないのです。80人ぐらいの小さい所帯なのですが、幸いにして、副学長や学長補佐など、非常にフットワークの良い人たちが全部合わせると10数名いて、私が何か言うと、本当にその通りにやってくれるようなチームのメンバーがいます。
―― 東京大学では考えられないですね。
白石 ですから、それでうまく回っています。実際問題として、80人のうち10人が動けば、アドミニストレーション(管理)はできます。もちろん、あとの人も教育はきちんとやってくれます。皆、ちゃんと動いて、研究成果などもかなり国際的な成果を出していますので、なかなか恵まれてはいると思います。
―― そういう大学はめったにないですよね。
白石 正直に言って、国立大学のレベルでここまで国際化していて、かなり自由に動ける組織というのは、うちがやはりトップではないでしょうか。別に自慢するつもりはありませんが。
●幹部候補にターゲットを絞り、「エリートスクール」であることを明言
―― すごいところだなという感じがします。年間の予算はどれくらいですか。
白石 そんなに大きくありません。今、33億円ぐらいでしょうか。
―― でも、33億円でものすごい効果を出していますよね。
白石 やはり一種のターゲティングだろうと思うのです。このような言い方は日本ではあまり評判は良くないですが、「うちはエリートスクールです」と言っています。ですから、例えば日本人についても、公務員になりたい人はいらない。すでに公務員になって、中堅になって、これから幹部になる人を教育する所だ、と言っています。
―― 分かりやすいですね。
白石 そのようなことを、はっきり言っています。
それから、特に外国の政府と話をする時ですが、実は私、非常に人物が良く恰幅のいい貫禄のあるアメリカ人に、学長特別補佐ということで、プロモーション専門でお願いしています。彼が外国に行くと、結構大臣クラスの人が会ってくれるので、「うちはエリートスクールで、将来幹部になる人を教育するところだから、人を送ってください」とお願いしてもらいます。
●エリートにふさわしい教育と、豊かな人脈創造が「エリートスクール」たるゆえん
白石 それには二つの理由があり、一つは、そういう人に来てもらうと、そういう人にふさわしい教育をするということです。もう一つは、ここに来ると人脈ができるということです。現在はおそらく85、6カ国から来ていますから、ここにいるだけで、実は、相当コネクションができるわけです。
―― それはもの素晴らしいですね。日本に今まで全くなかった仕組みですね。
白石 そう思います。そのことに意外と気がついてないのが日本の人たちです。ですから、例えば、IMF(International Monetary Fund、国際通貨基金)と一緒にやっている「マクロ経済政策プログラム」という、修士で1年のプログラムがあるのですが、プログラムを修了して大体10年から15年すると、中央銀行の理事や、あるいは、財務省の局長クラスが出てきているのです。特に、中央アジアは昇進が早いので、もう副大臣などが出てきています。
●国際級の教授陣で、手弁当でもスタッフを送りたい「エリートスクール」に
白石 シンガポールやオーストラリアは、彼らの手弁当でスタッフを送ってくるのです。台湾も来ています。しかし、日本人は全然いないです。
―― もったいないですよね。これを日本の各省で、例えば財務省ならばエース級の人で主査から課長補佐の間ぐらいの人をポンポンはめていけばいいのに。
白石 そう思うのですけれども。実は財務省ご出身では、長岡實さんや篠沢恭助さんがうちの顧問にいらっしゃいます。また、日銀に行かれてしまいましたが、黒田東彦さんも日銀の総裁になっていなければ、実はうちの教授になっていました。
―― そうですか。それは強烈な顔ぶれですね。
白石 私は、どちらかというと、国際的に通用する人しか教員にはヘッドハントしないものですから、黒田さんのような人にもし来ていただけていたら、財務省からも少しは人が来たのではないかと思います。今のところ、財務省からの教員がいない状況になっていましてね。
●広く知ってもらいたい「エリートスクール」の真価
―― でも、「エリートスクールです」と言い切ってしまわないと、実際に真のエリートスクールはできないですよね。
白石 そう思います。
―― せっかく入学してきた人も、...