●岸氏の外交を見れば安倍総理の外交が分かる
安倍晋三総理に見られる岸信介さんのDNAのお話の続きをしたいと思います。
岸さんは、もともとは非常に大アジア主義の影響を受けた、民族的な意識の強い方で、アメリカと戦争をしたときの閣僚でもあったのですが、総理大臣になる経緯で非常にアメリカとの関係を重視して、日米安保条約の改定にも成功しました。
岸さんの外交、あるいは安保政策は、今の安倍さんの政策を考える上で、非常に参考になると言いますか、岸さんの存在、岸さんの外交を考えると、安倍さんの外交がよく分かるという気がします。
岸さんは総理大臣になるとすぐに東南アジアを歴訪します。東南アジアというか、インドから始まって、南アジアをアメリカに行く前に歴訪します。そして、アメリカに行ったあと、残りの国々も歴訪して、ほとんど東南アジアからオーストラリア、ニュージーランドというような国々を訪問するのです。
これは、岸さんの書き残したものやインタビューでもはっきりしているのですが、なぜそのようなことをしたかというと、もちろん戦争の後始末として南アジアの国々との賠償の問題などを片付けておきたいということがあるのですが、その中で、アジアの頼りになる国はやはり日本なのだと、アジアにしっかりした足場を持つ国として日本を印象付けて、それからアメリカに行かないと、アメリカになめられるという主旨のことを言っています。
確かにインドなどの国々では、中国や韓国とは少し違って、日本の近代を非常に褒めたたえてくれるということもあって、気分よく回るのですが、その上で安保条約の改定に臨むということをしました。
実は安倍さんの場合には就任後すぐに行ったのはアメリカでしたけれども、東南アジアを非常に重視して、その後ASEAN諸国をほとんど全部回りました。
岸さんの東南アジア歴訪の中では、中国という存在が非常に意識されていたわけです。つまり、アジアの中心は日本なのだと言うときに、中国という共産主義勢力に対抗する自由陣営の核は日本なのだという意識だったのです。
安倍さんもそういう意識が非常に強いと思います。今日、安倍さんはもう少しグローバルな視点で、ロシアであるとか、トルコにも2回も行きましたし、時代の変化を反映して「地球儀を俯瞰する外交」というような言い方で、もう少し広げていますけれども、やはり中国を意識した外交であることは間違いないと思います。
●憲法改正や治安立法強化も非常に似ている
それからもう一つ、岸さんは憲法改正を悲願としていたわけです。これも安倍さんが今引き継いでいるわけです。
アメリカとは関係をよくしなければいけないけれど、憲法というのはアメリカに押し付けられたものだという意識が非常に強い。ですから、自分たちの手で憲法を作ろうという悲願があります。しかし、岸さんは、自分の手ではそれは現実には不可能だということから、当面の目標を安保条約の改定におくわけです。これは、日米安保条約というのが、それまでのものは非常に不平等であったということから、もう少し対等平等に近づけようという趣旨の改定だったわけです。
安倍さんが今日やろうとしていることは、実はその延長ではないかと思います。集団的自衛権を認めるというようなことは、日米の対等化を意識しており、そのようなことによって、日本の言わば自尊心も取り戻していこうということにつながるわけで、そういう意味でも、岸さんのやっておられることの延長です。安倍さんの場合には、もう少し憲法改正が、岸さんの時代に比べれば現実味も帯びて、視野に入っているのではないかという気がします。そういう点でも似ているのです。
それから岸さんは、安保改定を前に警察の権限を強めようとします。つまり、安保改定でデモが激しくなったりすることを予期して、警察官職務執行法を強化しようとするのですが、これは失敗します。一方、安倍さんは、警職法ではありませんが、今さまざまな安保政策を強化する中で、機密保持の秘密保護法というようなことを強化しようとしている。ある種の治安立法を強化しようとしているところも似ているような気がします。これがうまくいくのかどうかは分かりませんが。
●歴史認識も祖父の影響があるのでは
そして、歴史認識の問題で、しばしば安倍さんは侵略ということについて「定義がない」というような言い方をしたり、侵略だったということを明確に認めることを嫌うわけですけれども、考えてみれば、岸さんは軍人ではありませんが、満州事変によって作られた、言うなれば日本の侵略によって作られた国家、満州という国の支配者だったわけで、この侵略責任を認めるというようなことを安倍さんが回避しようとするのは、おじいさんへの個人的な思いだけだとは思いま...