「70年談話」における賢い選択肢とは?
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
政治争点化は日本にとって有利な道ではない
「70年談話」における賢い選択肢とは?
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
日本の「戦後70年談話」は世界の注目の的となっているが、政治学者・曽根泰教氏は政治争点化しないことが非常に重要だと、その見識を示している。過去の談話を肯定しても否定しても、批判対象となってしまう日本の70年談話。そこで、何をどう語るべきなのか、あるいは語らずにいるべきなのかを踏まえ、「70年の平和の先」を考える。
時間:11分57秒
収録日:2015年3月10日
追加日:2015年5月7日
カテゴリー:
≪全文≫

●70年談話による争点化は避けるべき


―― 戦後70年談話の問題を、曽根先生はどう考えておられますか。

曽根 基本的に、争点化しない方がいい問題がたくさんあるのです。例えば、靖国問題。あるいは、慰安婦問題。それから、尖閣問題もそうです。ですから、この談話も、世界にけんかを売るというのであれば、多分、談話を出すということをした方がいいのかもしれませんけれど、基本的には、争点として言挙げしない方が賢いと思います。

―― やはりサブジェクトにしてはいけない問題というのがありますよね。

曽根 例えば、慰安婦問題を争点にして、事実はこうだと言っても論争にならないのです。人権、女性という問題で議論が進みますから。そうすると、日本政府にほとんど勝ち目はないですね。そして、勝ち目がない問題を言挙げするということは、あまり賢くない。また、尖閣については、日本は実効支配をしているわけです。実効支配しているのだから、黙っていればいいのです。それを、尖閣問題をまさしく争点にして世界に訴えて、現状変更をしたと思わせるというのが、賢い選択ですか、ということです。

―― おっしゃる通りですね。


●侵略を認め平和を誇っても残る日本の弱み


曽根 実は、私も韓国や中国の学者たちに、「対日問題で興味があることは何か」とごく最近聞きましたら、「70年談話だ」と言うのです。「ずっと注目している。何を言うか注目している」と言っていました。何を言うかを注目しているということは、過去の村山談話を肯定しても、河野談話を肯定しても、日本は批判を受けますし、否定しても批判を受けます。つまり、「70年談話」を出すという時点で、そこにもう火種をつくっているということなのです。

 ですから、多分、安倍首相が70年談話で言いたいことは、日本は侵略や植民地支配をきちんと認め、その上で、戦後70年間、日本は平和を守ってきた、世界の秩序を乱さなかった、ある意味で模範生であったということを言いたいのだろうと思います。

 けれども、前からずっと繰り返しお話ししていますが、例えば、日本は憲法があるから平和だということをそのまま推し進めて、では、日本の憲法9条を世界中に広めればいいというような運動は成り立ちますか、ということが一つ言えますね。それから、湾岸戦争の時に特に問題になった、憲法9条は言い訳にしか過ぎないだろ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層
ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎