日本の電力システム改革~発送電分離と小売の自由化
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電力システム改革で電力業界再編へ
日本の電力システム改革~発送電分離と小売の自由化
政治と経済
伊藤元重(東京大学名誉教授)
戦後最大の電力システム改革がついに動き始めた。これまでアンタッチャブルだった電力業界に何が起こるのか。日本経済に与える影響は? 東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏が分かりやすく解説する。
時間:16分37秒
収録日:2015年5月27日
追加日:2015年6月8日
≪全文≫

●発送電分離、電力自由化へ、歴史的転換


 今回の国会で、電力の発送電分離を決める法案が成立します。すでに衆議院を通り、間もなく参議院も通るでしょう。日本の電力システム改革も、これで法律の立て付け上は一応完成したことになります。いろいろなことが言われていますが、具体的な中身として特に重要な点は、一つは発送電分離で、発電・送配電・小売の三つを分けていくことです。もう一つは、小売の完全自由化を推し進めること。この二つが非常に重要な中心になります。

 よく言われるように、今回の改革は戦後60年にわたる大手企業の地域独占を崩す最大の電力システム改革であり、これが業界のみならず日本経済全体に及ぼす影響は何であるかを見る必要があります。多くの分野、例えば航空や金融、あるいは情報通信などの分野では、規制緩和は少しずつ進められてきて、いわば市場メカニズムの中で自由な競争が行われるようになってきたわけですが、電力はある意味でそれが最も遅かったわけです。

 その背景はいくつかあります。一つは、電力とは非常に複雑な商品で、発電した瞬間にそれを消費しないといけないという同時性の問題があるため、システム全体の一貫性が求められる難しさがあります。それからもう一つは、電力会社、いわゆる一般事業者といわれる全国10の電力会社が、やはり政治的に非常に強い存在であったということです。政府としても、その電力会社の意向と反して自由化を進めていくことは、非常に難しかっただろうと思います。

 そういう意味では、福島の原発事故が起こり、特に東日本で大きな停電が起こって、電力に対していろいろな意味でもう一度根本から考えてみなくてはいけないという論議が盛り上がっている中で、電力システムの改革が行われるのは、ある意味で歴史的な転換かもしれません。


●新規参入がしやすくなる


 具体的にどういうことが起こるかというと、本当にいろいろなことが起こると思いますが、いくつか重要なことをまず申し上げなければなりません。発送電分離で、発電と送配電と小売が分離されることがどういうことかというと、新規の参入が非常にやさしくなる、やりやすくなるということです。

 これは情報通信のケースと比較してみると分かりやすいでしょう。発送電分離のことを英語で「アンバンドリング」と言います。バンドルは束です。アンバンドリングで...

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