●地域的な生産ネットワークがスマイルカーブを深化
白石 繰り返しになりますが、これから先、例えば何が起こるかを考えてみます。ケネス・ボールドウィン氏の息子のリチャード・ボールドウィン(ジュネーブ高等国際問題研究所教授)という人が、グローバル化と情報通信革命の中で、経済に何が起こったかを論じています。彼は、セカンド・アンバンドリング(Second Unbundling)という言い方をしていますが、要するに生産プロセスが細分化されて国境を越え、それぞれの仕事に一番良く比較優位のあるところに立地され、地域的な生産ネットワークでいろいろなものを作り始めるということです。そうすると、1980年代はフラットだったスマイルカーブ(各事業プロセスにおける付加価値の高低を示す曲線)がどんどん深くなっていき、これからもますます深くなっていくだろうと言います。
彼は、それには二つの理由があると言います。一つは比較優位で、仕事上、あるタスクをする上で比較優位があるところに立地するということになってくると、どうしてもその仕事のナレッジ(知識)を扱うところは付加価値が高くなり、単なるレイバー(労働)のところは付加価値が小さくなってきます。その上、ロボット化や無人化が進むと、ますます谷は深くなってくるというのが一つ目の理由です。
もう一つは、現在、第一次産業・第二次産業・第三次産業という区分がありますが、特に第二次について、生産ネットワークが地域的に広がっていくと、サービスの要素が付加価値の上でどんどん重要になるということです。すでに生産される付加価値の3分の1くらいはサービス産業なのです。デザインやR&D、ロジスティックス、マーケティングなど、こういうところで3分の1くらいの付加価値が取られていて、これからますます進展するだろうといわれています。
こういうことを考えますと、多分これからは、当然ながら科学技術上の競争になってきます。あるいは、それを支えるような人間をどのくらい育てて供給できるかという競争になってきます。これはもう止まらないと思っています。そのインプリケーション(含意)は、経済の方では、いま話したような、いわば生産のグローバル化、サービス化であり、本当に具体的なアセンブリー(組み立て)にするようなところではロボット化し、ロジスティックスのところではIT化して...