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地域的な生産ネットワークがスマイルカーブを深化させる

国家戦略コア技術~技術革新と国家(2)技術革新が国中心の視点を相対化

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
技術革新は、経済や戦争にも大きな変化を及ぼす。例えば生産は細分化・ネットワーク化され、戦争は無人化・ロボット化していくだろう。そうなると、技術革新への対応力が、その地域の経済発展や安全保障を左右するようになる。政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏は、この変化が、国中心で考えてきた従来の視点すら相対化するだろうと話す。(後編)
時間:11:46
収録日:2015/05/19
追加日:2015/07/13
≪全文≫

●地域的な生産ネットワークがスマイルカーブを深化


白石 繰り返しになりますが、これから先、例えば何が起こるかを考えてみます。ケネス・ボールドウィン氏の息子のリチャード・ボールドウィン(ジュネーブ高等国際問題研究所教授)という人が、グローバル化と情報通信革命の中で、経済に何が起こったかを論じています。彼は、セカンド・アンバンドリング(Second Unbundling)という言い方をしていますが、要するに生産プロセスが細分化されて国境を越え、それぞれの仕事に一番良く比較優位のあるところに立地され、地域的な生産ネットワークでいろいろなものを作り始めるということです。そうすると、1980年代はフラットだったスマイルカーブ(各事業プロセスにおける付加価値の高低を示す曲線)がどんどん深くなっていき、これからもますます深くなっていくだろうと言います。

 彼は、それには二つの理由があると言います。一つは比較優位で、仕事上、あるタスクをする上で比較優位があるところに立地するということになってくると、どうしてもその仕事のナレッジ(知識)を扱うところは付加価値が高くなり、単なるレイバー(労働)のところは付加価値が小さくなってきます。その上、ロボット化や無人化が進むと、ますます谷は深くなってくるというのが一つ目の理由です。

 もう一つは、現在、第一次産業・第二次産業・第三次産業という区分がありますが、特に第二次について、生産ネットワークが地域的に広がっていくと、サービスの要素が付加価値の上でどんどん重要になるということです。すでに生産される付加価値の3分の1くらいはサービス産業なのです。デザインやR&D、ロジスティックス、マーケティングなど、こういうところで3分の1くらいの付加価値が取られていて、これからますます進展するだろうといわれています。

 こういうことを考えますと、多分これからは、当然ながら科学技術上の競争になってきます。あるいは、それを支えるような人間をどのくらい育てて供給できるかという競争になってきます。これはもう止まらないと思っています。そのインプリケーション(含意)は、経済の方では、いま話したような、いわば生産のグローバル化、サービス化であり、本当に具体的なアセンブリー(組み立て)にするようなところではロボット化し、ロジスティックスのところではIT化していくということなのです。


●技術革新は戦争とレジスタンスのあり方も変えていく


白石 同時に安全保障について言いますと、大きい意味が二つあります。そもそも戦争について、われわれ考える物自身が大きく変わっていくということです。すでにドローンの登場でこの話は相当出てきていますが、これからますますサイバー化、無人化、ロボット化、ナノ化が進んでいきます。

 それから、もう少し広い意味での安全保障ということで言いますと、すでに申し上げたことと重なりますが、技術的にはわれわれ個々人の場所も、活動も、体の状態も、個々のレベルで24時間捕捉できるような世界ができてきます。これは、例えば中国のような権威主義体制の場合では、国家の力がとても強くなるということなのですね。つまり、レジスタンスがほとんどできなくなる世界が、もうすぐそこにあるということです。日本やアメリカのように民主主義的な社会では、国家がそういうことをすることについては当然歯止めがかけられるでしょうが、それと同時にベースそのものの脆弱性の性格が変わってくるわけです。

 そういった意味で、今から10~15年で21世紀は急速に変わっていきます。おそらく2050年くらいになってくると、われわれの想像がつかない世界がもうできています。そのくらいのつもりでいろいろなことをやっていかないといけないと思います。

── それが前提になると、考え方が全然違ってきますよね。本当にシンギュラリティー(技術的特異点)の到来ということになるわけですね。

白石 ただ、必ずしも社会システムそのものはまだそういう状態になっていないので、そこはかなり意識的に、そういった将来像に合う形で社会システムを変えていかなければならないわけです。


●技術革新への対応力は地域ごとで差がある


白石 以前、お話ししたでしょうか。ある経営者の話です。一種の農業のサービス化をやっている方で、5年ほど前にその方が日本でやったのは、東京近郊のプロの専業農家とレストランを一対一で結び、スマートフォンで生産者と直結させ、彼らの生産物とそのレストランが通じるようにしたことです。これをやるのに、3年かかったというのですね。なぜかというと、結局生産者は60代以上ですから、スマートフォンを使いこなすのに3年かかったわけです。

── トレーニング期間ですね。

白石 ところが、実は...
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