●パックス・アメリカーナ維持の鍵は中国
白石 それでは今からどうするのかということです。実は、私は相当心配しています。それはなぜか。ヨーロッパの場合には今、ウラジーミル・プーチン大統領がものすごく抵抗しているのですが、NATOの拡大の中でEUの拡大が起こり、そこでは完全にアメリカの平和とドル本位制が連動しています。もちろんユーロの通貨圏はありますが、基本的にはドルと連動しているのです。それから自由民主主義と市場経済という規範が当てはまる世界があり、構造的な矛盾はないわけです。むしろ構造的な矛盾は、ロシアとの間にあります。
ところが東アジアでは、1978年の改革開放以来、中国がずっとこのシステムにフリー・ライド(ただ乗り)してきたわけです。例えば1990年代、中国が世界経済に占めるシェアは5パーセント以下でした。1990年は2パーセント以下ですし、2000年になっても4パーセント以下だったのです。ですから、その頃にはまだフリー・ライドできたのです。しかし、2020年くらいにはおそらく17~8パーセントくらいになってきて、2020代年半ばにはアメリカと拮抗するようになります。そのとき、アメリカ中心のシステムの中にいるけれどもアメリカの平和に挑戦し、ドル本位制にも挑戦するでしょう。国内的には自由民主主義ではなくて共産主義かつ一党独裁で、市場経済というけれども実際には社会主義市場経済で、3~4割の中国の経済は中国の国有企業がコントロールしている。こういうものを抱えながら、果たして安定するのでしょうか。おそらくこれから10~15年のスパンで見ると、これがものすごく大きい問題になってくるでしょう。
もちろん決定的に重要なのは、中国はどうするのかということです。私は、習近平政権は基本的にこの決定をしたくない政権なのだろうと思っています。けれども、例えば習近平政権から次の政権に移るあたりで、いや応なしにそういう決定に直面してくるのかなと思います。ですが、どうなるかは分かりません。
●アメリカの平和を支える地域的ネットワーク
白石 そういうことを見据えながら、日本は何をするのかということです。それが、今から15~20年くらいの日本の国家戦略ということでは決定的に大事なことです。私は、それはアメリカの平和にあると言っていますが、実際にはアメリカの力が落ちているというより、アメリカという国や政府が力を行使することについての国内の支持が弱っているのですね。そうすると、どうしてもアメリカ単独ではできないので、同盟国あるいは連携国が一緒になってやらなければいけないということです。それが今まさに日本に期待されていることであり、オーストラリアに期待されていることなのです。
そういう意味で、最近アメリカを中心とする「ハブとスポークス(Hub and Spokes)」の地域的な安全保障システムをネットワーク化していく必要があるという議論をしています。これはまさに、地域的ネットワークという形でアメリカの平和を支えるような一種の役割なのです。アメリカの平和を支えるという言い方については、この間、国会に参考人として出た時、共産党の委員から「アメリカの平和をなぜサポートしなければならないのだ」という議論が出ましたが、そういうことではないのです。それが日本にとってもこの地域の安定にとっても良いからやっているのです。そういう意味で、どうしてもバランシングの役割を日本もやらざるを得えません。
けれども、もう一つ重要なことは、ルール、あるいは規範に基づく秩序をどうやって進化させていくかということです。これから中国が重要になるのは仕方がないので、そのときに中国も一緒になってルールを作れるように促しながら、開かれた秩序をどうつくっていくか。この二つが非常に重要なのです。その意味で、実際には野田政権から始まっていると思っているのですが、一方で安全保障上の役割を強化しつつ、同時にルール・メイキング、あるいは国際的な法の支配にのっとった形で、21世紀にふさわしい秩序をつくっていくわけです。それを国際協調主義と言っていますが、多国間主義のことですよね。まさにこれは野田政権から安倍政権に至るまでずっと続いていることで、私は、これはこれで非常に重要なのでやるべきことだと思っています。
●国家中心の発想を脱し、新たなビジョンを示す
白石 ただ繰り返しになりますが、そういう発想はまだ国家中心の発想なのです。ところが、決定的に変わりつつあることですが、ビル・クリントン大統領がそれを一番感覚的に分かっていた政治家ではなかったかと最近思い始めていることは、グローバル化の中で、そもそもわれわれが考えているような世界的な政治経済システムそのものが、根本的なところで変わっ...