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クルド対応に見るトルコとイランの対立構造

トルコとイランの関係(2)緊張関係と今後のシナリオ

山内昌之
東京大学名誉教授
概要・テキスト
シリアにおける内戦の激化とイラクからのアメリカ軍の撤退によって、トルコとイランの間に横たわる伝統的な競合関係が復活したと歴史学者・山内昌之氏は語る。しかし、両国はスンナ派対シーア派の宗派対立にコミットするだけでなく、シリアのアサド政権や、クルド人地域政府との関係などを介した緊張関係もつくり出している。中東地域情勢の鍵を握るトルコとイランの関係について山内氏が解説する。(後編)
時間:13:26
収録日:2015/06/09
追加日:2015/07/13
カテゴリー:
≪全文≫

●トルコとイランの競合関係が復活


 皆さん、こんにちは。今日は、引き続きトルコとイランとの関係について触れてみたいと思います。

 シリアにおいて生じた内戦が激化したこと、それから2011年にアメリカ軍がイラクを撤退したことは、イランとトルコとの間に、この地域をめぐる伝統的で歴史的な競合、競争というものを復活させることになりました。シリアとイラクにおいて溝を広げているシーア派対スンナ派の宗派対立については、以前セクタリアンクレンジング(宗派浄化)という非常に厳しい言葉を紹介したと思いますが、そうした対立を繰り広げている陣営に、それぞれトルコとイランがコミットしたからです。

 トルコは、シリアにおけるムスリム同胞団、自由シリア軍、あるいはアヤド・アラウィ氏に統率されたスンナ派のイラク運動を擁護し、明白に反アサド政権のスタンスを打ち出します。イランは、アサド政権を擁護するという姿勢に変わりがなく、イラクのシーア派の諸政党や政権への支持を譲りません。


●クルド対応に見るトルコとイランの対立構造

 
 双方のこういうライバル関係は、クルド人の領土においても進行しました。トルコは、共和国国内最大のクルド民族主義組織であるクルディスタン労働者党(PKK)と平和構築に努めており、北イラクのクルド地域政府(KRG)とも、外交や通商の絆を強化しています。アンカラ政府は、北イラクのクルド支配地域、すなわちKRGの首都ともいうべきエルビル(アルビール)に総領事を開きまして、KRGとの関係を正常化しています。

 このことは、KRGという内陸国家、すなわちどこかの国を経由しないと海に出ていけないというblocked(閉鎖)されている国家であるKRGが、トルコ経由でインドや中国、イスラエルといった顧客に石油を輸出するルートをつくることを可能にしました。KRGは内陸国である以上、どこかを同盟者、あるいは友好国とせざるを得ません。その中で、トルコという国がパートナーとして選ばれたことになります。

 アンカラが、このKRGに対して利かせるてこ(レバレッジ)は何かと申しますと、これは、イラクの首都バグダッドにあるシーア派政権との関係において均衡を取ろうとすることでありました。イラク(バグダッド)の中央政権は、シーア派そのものだといってよろしいわけです。すなわちイランに支援されたそ...
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