●トルコとイランの競合関係が復活
皆さん、こんにちは。今日は、引き続きトルコとイランとの関係について触れてみたいと思います。
シリアにおいて生じた内戦が激化したこと、それから2011年にアメリカ軍がイラクを撤退したことは、イランとトルコとの間に、この地域をめぐる伝統的で歴史的な競合、競争というものを復活させることになりました。シリアとイラクにおいて溝を広げているシーア派対スンナ派の宗派対立については、以前セクタリアンクレンジング(宗派浄化)という非常に厳しい言葉を紹介したと思いますが、そうした対立を繰り広げている陣営に、それぞれトルコとイランがコミットしたからです。
トルコは、シリアにおけるムスリム同胞団、自由シリア軍、あるいはアヤド・アラウィ氏に統率されたスンナ派のイラク運動を擁護し、明白に反アサド政権のスタンスを打ち出します。イランは、アサド政権を擁護するという姿勢に変わりがなく、イラクのシーア派の諸政党や政権への支持を譲りません。
●クルド対応に見るトルコとイランの対立構造
双方のこういうライバル関係は、クルド人の領土においても進行しました。トルコは、共和国国内最大のクルド民族主義組織であるクルディスタン労働者党(PKK)と平和構築に努めており、北イラクのクルド地域政府(KRG)とも、外交や通商の絆を強化しています。アンカラ政府は、北イラクのクルド支配地域、すなわちKRGの首都ともいうべきエルビル(アルビール)に総領事を開きまして、KRGとの関係を正常化しています。
このことは、KRGという内陸国家、すなわちどこかの国を経由しないと海に出ていけないというblocked(閉鎖)されている国家であるKRGが、トルコ経由でインドや中国、イスラエルといった顧客に石油を輸出するルートをつくることを可能にしました。KRGは内陸国である以上、どこかを同盟者、あるいは友好国とせざるを得ません。その中で、トルコという国がパートナーとして選ばれたことになります。
アンカラが、このKRGに対して利かせるてこ(レバレッジ)は何かと申しますと、これは、イラクの首都バグダッドにあるシーア派政権との関係において均衡を取ろうとすることでありました。イラク(バグダッド)の中央政権は、シーア派そのものだといってよろしいわけです。すなわちイランに支援されたその政権に対して孤立しかねないクルドのKRGに、トルコがてこ入れを図って均衡を取ったということになります。
●KRG第二の都会にイランが影響力を行使
しかしながら、イランもKRGに対しては積極的に工作をしているのです。2014年夏にイランとKRGとの間に対立が生じた後、KRGのペシュメルガと呼ばれる民兵部隊の一部に、軽火器を提供するというようなことが和解後にありました。KRGの首都はエルビル(アルビール)ですが、第二の都会はスレイマニアという所です。このスレイマニアにはイランが影響力を行使しています。なぜならば、この町にはKRGの主流からやや距離を置いたPUK(クルディスタン愛国同盟)が基地を置いているためです。エルビルに基盤を持つのは、KDP(クルディスタン民主党)という党です。
やや難しいのですが、もう1回おさらいをしておくと、首都であるエルビルに基盤を持つのがKDP(クルディスタン民主党)であり、これがこのKRGのマスード・バルザーニ大統領の出身母体だということです。それに対するライバルとして、KRGの第二の都会であるスレイマニアにいるのがPUK(クルディスタン愛国同盟)ということになるわけです。
●北イラク独立をめぐってあり得るシナリオ
そこで、このクルドの地域政府をめぐるテヘランとアンカラの対立は、今後の独立宣言に関するKRGのものの考え方にも影響を与えるものと思われます。つまり、合理的なのは、トルコが北イラクの独立を支援する一方、イランがそれに反対することかと思われます。合理的という言い方はあまり適切でなく、あり得るシナリオと言った方が分かりやすいかもしれません。あり得るシナリオとしては、トルコは北イラクの独立をおそらく支援するでしょう。しかしながら、イランはそれに反対するでしょう。なぜならば、やはりイランの西部にあるクルド人の地域とすぐに結び付きかねないからです。トルコとの間には、険阻な山地部、山岳部も横たわっていますが、イランとの間にはそれほどの障害がなく、行き来は常にあり得るのです。そうしたことが恒常化すると、イランの領土に不安定な要因が入ってくることもやはり危惧しているのでしょう。
いずれにしましても、もう一つの理由としてイランは、このKRGのエネルギー資源がバグダッドの中央政府に残ることを望むからです。独立してしまえば、シ...