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DATE/ 2018.08.24

ネットワークビジネス、その怪しいカラクリは?

 もし周囲に「誰でも成功できる」「簡単に稼げる」という言葉を言う人がいたら、ネットワークビジネスへの勧誘かもしれません。ネットワークビジネスとはマルチ商法のことで、別名MLM(マルチレベルマーケティング=連鎖販売取引)とも言われます。ネットワークビジネスに関わって、金銭も人間関係もほぼ失ってしまったという人の話は枚挙に暇がありません。また、実際に過去、数々の訴訟が起こされています。最近では、SNSや街コン、マッチングアプリ等を利用した勧誘も多いようです。

 ネットワークビジネス自体は違法ではありません。だからこそ、私たちはどういうものかしっかりと知っておくべきでしょう。ここではネットワークビジネスの何が問題で、どのような注意が必要なのかという点について考えてみます。

ネットワークビジネスとはどのようなものか

 ネットワークビジネスは他者に紹介することによって、紹介した人数分の報酬が支払われます。例えばネットワークビジネスを行っている人から洗剤を買う場合、洗剤を買うことを目的とするよりも、むしろそれを販売して儲けようと思う人のほうが多いはずです。このように、単に消費するのではなく、その商品の消費を積極的に販売する集団の一部となるということ、ある意味その商品の営業支部のような役割として組織(ネットワーク)に組み込まれるのがネットワークビジネスです。消費者参加型ビジネスと言われることもあります。

 消費者は買うと同時に売る人間にもなるので、商品の仕入れなど当然リスクを背負います。しかし、リスクは単にこの仕入れのお金だけではない点には注意が必要です。一般的に、企業で営業マンとして仕事ができるようになるまでには多くの経験や知識、また同僚や先輩からの指導が必要です。しかしネットワークビジネスで何の経験も知識もなく売る側にまわるということは、純粋に自身の信用だけを担保にしているということです。中にはこういうことが上手い人もいるでしょう。しかし、そういった資質は多くの人が持っているものではありません。このことは忘れがちですが、大きなリスクです。

美容機器から健康食品、宝飾品など取り扱う商品は様々

 実際に商品として売り買いされるのは、宝飾品、化粧品、洗剤、浄水器、調理器具、美容家電、健康食品、健康器具など多岐に渡ります。また、一般的な市販品よりも値段が高いことが多いです。また特にリピーターがつきやすい、化粧品などが多いようです。

 『知らないとソンする!価格と儲けのカラクリ』という本では「世界一安全で地球にやさしい洗剤」「がんにならないアルカリ浄水器」「NASAが開発した化粧水」「世界の貧しい子供を救う宝石」といったオーバートークで売り込まれるとのこと。しかし、こういった言葉は証拠が残らないよう、多くの場合口頭でのPRに留められるそうです。

 これを買うことで世界が良くなる、といった人の良心に訴えかけるものから、健康不安につけこんだもの、また技術の高さで売り込まれると、少々値段が高くともそういうものかと思ってしまう部分はあります。しかし、本当のところは分かりません。売る人間も実際はただの消費者であり、営業のプロではないのです。通常、営業に問題があれば、企業に問い合わせることができますが、ネットワークビジネスの場合、あくまで販売するのは一般人です。品質や価値を保証するところは曖昧です。

ネットワークビジネスは儲かるのか

 月間ネットワークビジネス2016年10月号によると、日本でのネットワークビジネスの市場規模は114社で8253億円とされています。なかなかの金額です。また、ネットワークビジネスに関連する書籍もかなりの数あるようです。では、実際にどのくらい儲かるのでしょうか。「弁護士の総合検索サイトあなたの弁護士」で試算が掲載されています。これを見ると、年収1000万円を達成する割合は0.425%とのこと。計算を受けてこのサイトでは「誰でもできると考えるのは客観性を欠いている」と指摘しています。

ネットワークビジネスは違法ではないのか

 商品(商材)を介さず、入会費だけが移動する仕組みは「ねずみ講(無限連鎖講・金銭配当組織)」として1978年にできた「無限連鎖講の防止に関する法律」で禁じられています。なぜなら、勧誘できる人がいなくなれば必ず崩壊するからです。誰もが加入できるとすれば、計算上この仕組みは簡単に日本の人口を越えてしまいます。そこで現在では商品の流通を前提として、特定商取引法33条の一定条件を満たした上で、収益を上げる形に変化しています。その商品に対する対価としてお金を払うので、崩壊しないとされています。

ねずみ講とは、ねずみ算式にピラミッド状に組織が拡大していくことになぞらえています。ネットワークビジネスは、人を紹介して広がっていく点など、これと似た仕組みではあるけれども、あくまで商品を売るための方法という枠組みを設けているということのようです。しかし、この特定商取引法33条の一定条件には「一度断った相手を再度勧誘してはいけない」といった決まりがあるなど、かなり厳しいものになっています。一歩間違うと犯罪になりかねないので、よく理解しておかなければなりません。
 

ピラミッド型の組織構造の罠

 ネットワークビジネスではピラミッド型の組織が作られます。下部会員は自分より上の会員から商材を買います。ピラミッドの上位にいる人間は自分より下にいる人間が増えれば増えるほど、特に自分では働かなくとも儲かる仕組みです。これは、上にいる人間が子の代の収益の半分を受け取り、また孫の代の収益の三分の一を受け取る、といった形で可能です。つまり、ネットワークビジネスではより上の階層の人間、つまりより早くそのビジネスをはじめた人間に利益が集中します。

 ここでの問題は、自分がネットワークビジネスをはじめる際、何代目なのかということです。このことを訊いたとして答えてもらえるでしょうか。また答えてくれたとしても、おそらく「3代目程度ですよ」といったように相手は必ず新たに参加する人間に損はないといった回答をするはずです。それを信用できるでしょうか。また、実は訊かれた本人も知らない可能性があります。とにかく下に新たな会員を入れることでしか儲けは出ない仕組みなので、とにかく勧誘するしか道はありません。

 こうして、一度この組織に組み入れられた人間は、自分を中心として下にピラミッドができていくことだけを想像します。しかし、現実にはもうかなり大きなピラミッドが出来上がっているかもしれません。そのリスクを知らずにビジネスをはじめることが危険なのです。たとえWeb上で不特定多数にマーケティングを行ったとしても、興味を持ってくれる人間の数は限られています。親族はもしかしたら買ってくれるかも知れませんが、その先はありうるでしょうか。

ネットワークビジネスの倫理的問題

 状況を整理して、ネットワークビジネスを端的に言うなら、自分の信用や人間関係を「ほとんど儲かる見込みのないビジネスに投資する無謀な賭け」と言っていいでしょう。運営母体にしてみれば、消費者の信用を利用して、勝手に他の消費者が囲い込まれていくので楽です。ねずみ講と違う点は、商材があり、その魅力をうたう点です。しかし、その商材は人を集めるためだけにあると言ってもいいでしょう。

 当てにしているのは消費者の数が拡大することです。いい商品が売れるかどうかは大きな問題ではなく、どれだけ多くの人間を巻き込むことができるか、ということがポイントです。巻き込まれた人間は投資を回収するために必死になります。末端になればなるほどこの苦しみと損失が大きくなることは想像にたやすいでしょう。こういった点でネットワークビジネスは、消費者に対する倫理的な問題に対しては極めてグレーではないでしょうか。

ネットワーカーの特徴

 ネットワークビジネスの勧誘文句は「夢をかなえてみない?」や「はじめにちょっと投資すればあとは黙っていてもお金が入る」というものが多いようです。「みんなでワイワイバーベキュー」「タワーマンションでの大人数パーティ」などに誘われて行ってみると、人生観が変わった話をされたり、やたら人生の成功や夢について語られたりといった経験も耳にします。また知り合いからゲーム(キャッシュフローゲーム)やセミナーへの参加を促してくる、『金持ち父さん貧乏父さん』の本を薦めてくる、こういった友だちやママ友やご近所さんがいたら、要注意です。

<参考文献・参考サイト>
・『知らないとソンする!価格と儲けのカラクリ』(神樹兵輔・21世紀ビジョンの会著、高橋書店)
・『月間ネットワークビジネス」(2016年10月号、株式会社サクセスマーケティング)
・弁護士の総合検索サイト『あなたの弁護士』:ネットワークビジネス6つの問題点と違法になりうる勧誘方法7つ
https://yourbengo.jp/shohisha/598/
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