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DATE/ 2019.05.08

なぜ校長先生の話は「長い」のか?

 月曜日の朝礼、始業式や終業式、運動会や文化祭、そして入学式や卒業式にいたるまで、学校生活には“校長先生の話”が欠かせません。

 しかし、子どもの頃に何度も聞いたはずの“校長先生の話”の思い出は、内容よりも「長かった…」という人も多いのではないでしょうか。

 なぜ校長先生の話は「長い」のでしょうか。考察してみたいと思います。

校長先生の話には「ネタ本」がある!?

 今回のテーマである「なぜ校長先生の話は「長い」のか?」という疑問は、NHKの雑学クイズバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」でも取り上げられ、話題となりました。番組で俳優の中尾彬氏が正解したように、“校長先生の話”が長い理由の一つに、校長先生の話に「ネタ本」があること、さらには「ネタ本の内容に加えて、自分の話を入れ込むため長くなる」が挙げられます。

 ちなみに「ネタ本」を研究した論文「校長講話分析のための予備的考察」によると、“校長先生の話”は主に以下の6テーマに分類されます。

1)教育目標に迫るような話(教育目標の具体化、教育目標の確認など)
2)人間として生きる自覚をもたせる話
3)日本に伝わる年中行事や伝統、習慣などを伝えるような話、暦について
4)自然の美しさや四季の変化に目を向けさせるような話
5)世の中の出来事や子どもの生活の中から考えさせるような話
6)心に残る美しい話、感動的な話

 ここで注目してほしい単語が1点あります。上記の論文タイトルに含まれる“校長講話”という単語です。「チコちゃんに叱られる!」でも教育評論家の尾木直樹氏が、「校長講話集という“ネタ本”があり、全国の約7~8割の校長先生が使っているのでは」と解説していましたが、いわゆる“校長先生の話”は、教育界では“校長講話”と呼ばれているようです。

校長先生に求められる“校長講話”

 では“講話”にはどんな意味が含まれているのでしょうか。『デジタル大辞泉』では「ある題目について、大勢の人にわかりやすく講義をすること」、『日本国語大辞典』では「ある題目について、集まった多くの人にわかりやすく説き聞かすこと」と書かれています。つまり“校長講話”では、“題目(テーマ)”についてわかりやすく“講義する”もしくは“説き聞かす”ことが求められているようです。

 さらに“校長講話”はときとして、“校長訓話”とも呼ばれているようです。そして“訓話”は『デジタル大辞泉』では「教えさとすための話。また、教訓的な話。「朝礼で全生徒に―する」」、『日本国語大辞典』では「教え導くためにする話。教訓的な話。また、学校長などが行事として行なう講話」と説明されているように、より一層、いわゆる“校長先生の話”とイメージが結びつきやすい例も含まれています。

 このように、あくまでも学校において教育のために行われる“校長先生の話”は、本質的に“講話”や“訓話”の要素を求められています。そのため、単なる“お話”では済まされず、結果として話が冗長になる危険性を含んでいます。

校長先生は「学校経営」の主経営者だからこそ

 一方、始業式や終業式、運動会や文化祭、入学式や卒業式などの“儀式”における“校長講話”について、公立高校校長に対してアンケート調査等を行った結果をまとめた論文「学校文化を創る「校長講話」の役割-校長調査から-」では、“校長講話”を行うときに対象としている人々に対する校長先生の意識を、「(A)講話の対象はあくまで生徒を中心にすえるべきである」「(B)講話の対象として、生徒のみならず教職員や保護者も意識しておかねばならない」の、2つにまとめています。

 そして、「(B)の立場を取る校長を、生徒を意識する比率が8割以下としてみると、入学式・卒業式のような場合においては、大半の校長(90%)が、生徒を対象としながらも参列している保護者・来賓及び教職員を何らかの意味で意識している」としています。

 その背景には、近年文部科学省が推奨する「開かれた学校」や「特色ある学校経営」への期待の高まりがあります。ますます校長先生独自の学校経営の手腕が求められていることにより、保護者や来賓を含めた地域社会への説明責任、さらには部下である教職員との意思疎通や目標共有のためなどに、“校長先生の話”がより一層「中身のある話」つまり、ここにおいても“講話”や“訓話”性を求められることになり、結果として長くなるという傾向もあるようです。

 しかし、あくまでも教育機関である学校の主経営者である校長先生には、やはり常に第一に子どもたちを、つまり児童・生徒のことを考えた言動をとってほしいものです。それは“校長講話”のときであっても同様です。11年間公立中学校の校長先生を務めた太郎良博氏は、著書『校長になる人への贈り物』において、“校長講話”の留意点として以下の8点を示しています。

1)児童・生徒にとってわかりやすい内容であること
2)起承転結のはっきりとした話し方であること
3)目線は常に児童・生徒に向けること
4)時機にあった話の内容であること
5)5分以内で終わるように努めること
6)できるだけ具体化を図る
7)講話の内容をあらかじめ原稿にまとめておく
8)できるだけオリジナルの話を用意する

 このうち5)で「5分以内で終わるように努めること」としていますが、いままで話題に挙げてきたいわゆるネタ本である「校長講話の事例集」の多くでも、1話の事例は短くまとめられている例や、簡潔に話すことの意義を記述している例は多数あります。とくに最近は熱中症の危険性なども考慮され、短くまとめることが推奨されています。

 “校長先生の話”は、児童・生徒にとっては本来であれば先達である校長先生の話を聴ける、校長先生にとっては児童・生徒と直接対話ができる、かけがえのないひとときです。その貴重な時間を「長かった…」の思い出で終わらせることは、大いなる教育的損失です。もしも「長い」話をしている校長先生がいるのであれば、本人はもちろんのこと「長い」話をしている校長先生にかかわるすべての大人に一日でも早い再考を願うとともに、いわゆる単なるネタ本にするためではなく、短くかつ特色ある“校長講話”の参考の一つにこそ、数多ある良書を取り入れてほしいと思います。

<参考文献・参考サイト>
・「校長講話分析のための予備的考察」(元兼正浩著『教育経営学研究紀要』4、九州大学)
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/761/KJ00000042604-00001.pdf
・「講話」、『デジタル大辞泉』(小学館)
・「講話」、『日本国語大辞典』(小学館)
・「訓話」、『デジタル大辞泉』(小学館)
・「訓話」、『日本国語大辞典』(小学館)
・「学校文化を創る「校長講話」の役割-校長調査から-」(椋本洋・八尾坂修著『教育実践総合センター研究紀要』(10)、奈良教育大学教育学部附属教育実践総合センター)
https://nara-edu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=8860&item_no=1&page_id=13&block_id=21
・「学校経営」、『日本大百科全書』(小学館)
・『校長になる人への贈り物』(太郎良博著、教育開発研究所)
・チコちゃんに叱られる! - NHK
https://www4.nhk.or.jp/chikochan/
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