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DATE/ 2017.07.06

認知症700万人時代、「生涯健康脳」のつくり方

認知症は発症する15年前に兆候が分かる!?

 認知症人口は、年々増加傾向にあります。厚生労働省の推計によると、いわゆる「2025年問題」に伴って、2025年には認知症の高齢者は700万人を超えるのではないかということです。「2025年問題」とは、2025年には団塊の世代のすべての人が75歳以上の後期高齢者となり、その医療費や社会保障費が増大する一方、介護医療従事者などの人手不足が深刻化するのではないかと予測されている問題のことです。

認知症は、いろいろな事件に発展することもあり、しばしば社会問題として取り上げられますが、MRIの診断の精度が向上したおかげで、近年新しい発見が続出しているといいます。

 『生涯健康脳』(瀧靖之著、ソレイユ出版)によると、たとえば、認知症は発症の15年前に診断によってその兆候を確かめることができるそうです。そもそも、認知症には「脳血管性」「レビー小体型」「アルツハイマー型」の大きく3タイプあり、最も多いのが「アルツハイマー型」。

 診断によって将来の発生を予見できるのも「アルツハイマー型」です(※以下、補足なく「認知症」と記す場合は「アルツハイマー型認知症」だと思ってください)。

認知症を予防する生活習慣

 『生涯健康脳』の著者である瀧靖之博士は、著書のなかで「認知症は生活習慣によって予防できる」と述べています。瀧博士は、脳のMR I画像を疫学データとして活用する研究、すなわち生活習慣と脳の関わりついての研究において、世界でも最先端の研究所である東北大学加齢医学研究所の教授です。これまで見てきたMRI画像は16万件を超え、MRI画像を見なくてもその人の外見を見れば、だいたい脳の様子を予測できてしまうほどの脳医学の達人なのです。

 どんな生活習慣が脳に良いのか。本書によると、「有酸素運動」を生活に取り入れることを勧めています。ただし、運動とはいえ、1日に30分程度歩く程度でいいそうです。激しく瞬発力を使う運動よりも、ウォーキングやジョギング、水泳のような継続的に酸素をしっかり取り込む運動が適しています。

 それから、「睡眠」です。質の良い「睡眠」を充分な時間とることにより、ストレスを取り除き、脳のメンテナンスを行うことができます。これが認知症予防に大きな働きをおよぼすのだそうです。

脳の最高の栄養素は「知的好奇心」

 「生涯健康脳」とは言っても、自分には年齢的にもう遅いのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。「脳はいくつになっても、生活次第で変化する」「生活習慣が遺伝子さえも超える」と瀧博士は述べています。

 実は、「生涯健康脳」を続けるためには、先述した「有酸素運動」や「睡眠」に増して大事なことがあります。それは、「知的好奇心」です。「知的好奇心」の高い人はいつもイキイキしているように見えますね。つまり、脳と見た目は一致するということではないでしょうか。

 ちょっとした生活習慣、ちょっとした心の持ちようで、脳の健康は持続できるということです。皆さんも「生涯健康脳」でいるために、今から少しずつでも「有酸素運動」「睡眠」「知的好奇心」を意識して生活してみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
『生涯健康脳』(瀧靖之著、ソレイユ出版)
http://soleil-pub.co/books/index.html#bs-01

<関連サイト>
瀧靖之氏の研究室ホームページ
http://www.nmr.idac.tohoku.ac.jp/index.html

<参考サイト>
厚生労働省HP: 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf

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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授