社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
日本に失われた「保守の知恵」とは何か?
10月22日に衆院選が与党・自民党の圧勝で終わりましたが、この機会に、現代の政治から失われた「保守の知恵」について、考えてみませんか。評論家・佐高信氏が語る内容が、そのヒントです。
終戦後の第1次吉田内閣で、内閣政務次官を務めたのが大野伴睦です。いわゆる党人派で「政治は義理と人情だ」がモットー。岐阜羽島出身で、故郷に誘致した新幹線駅前に夫婦の銅像が建っていることでも有名ですが、佐高氏が『大野伴睦回想録』の中から取り上げているエピソードは、日本共産党の戦後の表看板となった野坂参三にまつわるもの。
まだ日中の国交が回復しない時代、当時日本共産党議長だった野坂氏が中国訪問を希望したものの、ビザが下りずどうにもならないことがありました。戦前からの知り合いということからか、野坂氏は大野氏に仲介を頼み、大野氏は外務省に橋渡しをしたのです。
「なぜ共産党のトップの面倒を見るのか」と騒ぐ自民党の若手に対して、大野氏は一言、「もともと赤の人間を、赤の国にやってもどうということはない」。これで自民党は共産党に大きな貸しをつくったわけです。そこまで計算したかどうか不明ながら、思想の違いを認めるという点でおおらかに対応した姿勢を、佐高氏は「保守の知恵」と呼ぶのです。
「最初は気に染まない嫁をまわりから押し付けられて、しぶしぶもらった。しかし40年経って、その嫁も立派な子も産んでくれたし、最初は嫌いな嫁だと思ったけれども、段々その気持ちも変わってくる」
憲法を「嫁」にたとえるあたりが「ミッチー節」と呼ばれたゆえんですが、あえて泥くさい表現を使って提案を受け入れた渡辺氏に、田中氏はやはり「保守の知恵」を感じたと言います。それに比べると、ミッチーの長男である渡辺喜美氏が「希望の党」からの衆院選立候補を断念せざるをえなかった経緯は、まさに杓子定規と言えるのではないでしょうか。
日中関係と日米関係を「二次方程式」にたとえ、日中国交回復に「保守の知恵」を生かした政治家を懐かしむ佐高氏は、「分かりやすさ」ばかりが尊重される時代のもとで、「底深い知恵」が消されていく風潮、時代に応じた変節を許さない「危なさ」を危惧しています。それは果たして、政治の世界だけに限ったことでしょうか。
保守の知恵1:違いを批判しない
価値観は多様化しているはずなのに「不寛容」になり、ささいなことでイラつくようになったと言われるのが、現代社会の特徴です。今回、「国難突破解散」のネーミングで衆議院を解散する際に安倍首相がいくつもの「大義」を持ち出したことにも、炎上を恐れての周到な準備が感じられました。しかし、戦後の衆院史上で最も有名な解散といえば1953年、吉田茂首相の失言が発端となった「バカヤロー」解散でしょう。終戦後の第1次吉田内閣で、内閣政務次官を務めたのが大野伴睦です。いわゆる党人派で「政治は義理と人情だ」がモットー。岐阜羽島出身で、故郷に誘致した新幹線駅前に夫婦の銅像が建っていることでも有名ですが、佐高氏が『大野伴睦回想録』の中から取り上げているエピソードは、日本共産党の戦後の表看板となった野坂参三にまつわるもの。
まだ日中の国交が回復しない時代、当時日本共産党議長だった野坂氏が中国訪問を希望したものの、ビザが下りずどうにもならないことがありました。戦前からの知り合いということからか、野坂氏は大野氏に仲介を頼み、大野氏は外務省に橋渡しをしたのです。
「なぜ共産党のトップの面倒を見るのか」と騒ぐ自民党の若手に対して、大野氏は一言、「もともと赤の人間を、赤の国にやってもどうということはない」。これで自民党は共産党に大きな貸しをつくったわけです。そこまで計算したかどうか不明ながら、思想の違いを認めるという点でおおらかに対応した姿勢を、佐高氏は「保守の知恵」と呼ぶのです。
保守の知恵2:持論に固執しすぎない
立党30年にあたる1985年、自民党内に綱領改正の委員会が設置されました。新しい綱領から「改憲」の文字を外す動きに取り組んだのは、田中秀征氏。1990年代の新党ブームに火をつけた「新党さきがけ」の理論的指導者、細川政権で首相特別補佐、小泉政権で経済企画庁長官を歴任した彼は、渡辺美智雄の説得に当たります。70年代前半、石原慎太郎氏とともにバリバリの「反共の闘士」として青嵐会を引っ張ったタカ派の中心人物だけに、体当たりの覚悟で臨んだところ、返ってきた反応は意外なものでした。「最初は気に染まない嫁をまわりから押し付けられて、しぶしぶもらった。しかし40年経って、その嫁も立派な子も産んでくれたし、最初は嫌いな嫁だと思ったけれども、段々その気持ちも変わってくる」
憲法を「嫁」にたとえるあたりが「ミッチー節」と呼ばれたゆえんですが、あえて泥くさい表現を使って提案を受け入れた渡辺氏に、田中氏はやはり「保守の知恵」を感じたと言います。それに比べると、ミッチーの長男である渡辺喜美氏が「希望の党」からの衆院選立候補を断念せざるをえなかった経緯は、まさに杓子定規と言えるのではないでしょうか。
日中関係と日米関係を「二次方程式」にたとえ、日中国交回復に「保守の知恵」を生かした政治家を懐かしむ佐高氏は、「分かりやすさ」ばかりが尊重される時代のもとで、「底深い知恵」が消されていく風潮、時代に応じた変節を許さない「危なさ」を危惧しています。それは果たして、政治の世界だけに限ったことでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
ラストベルトはアメリカの経営者により生まれたが、それは決して攻撃ではなく、合理的な経営判断による必然的なりゆきだった。その一例として島田氏は、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が中国でスピーチした光景を思い出す。世...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/17
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
公共図書館では質の高い「レファレンス」サービスを提供しているが、活用する人は限られている。だが、実は全国の図書館ネットワークを縦横無尽に活用できる、驚くほどに便利な仕組みなのだ。今回は図書館のレファレンスで何が...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/15


