テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.05.16

50代だけじゃない!いまレコードが人気の理由

 2018年3月21日、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は、29年ぶりに自社生産レコードを発売しました。数年前から海外で端を発したアナログレコードブームが日本にもやってきているようです。

 滅びかけたレコードが今また脚光を浴びているのは、なぜなのでしょうか?

若者が牽引するレコードブーム

 2009年に底打ちしたレコードの生産枚数は、2016年には約5倍の79万9000枚に達するほど、急スピードで成長しています。

 懐かしいレコードの音をもう一度楽しみたい、という40~50代がレコードを買っているという面もありますが、このブームを後押ししているのは意外にも20~30代の若者たち。2017年4月に渋谷で行われたレコードの祭典「レコード・ストア・デイ」には、約200人もの若者がつめかけたといいます。

 日本のCDショップもこうしたレコードブームの再燃を受けてレコード専用のブースを設けたり、専門店を出店するなどして、レコードのシェア拡大のため奔走しています。

「所有する」価値が若者を惹きつける

 若者がレコードに惹かれる理由は大きく分けて2つ。アジアンカンフージェネレーションやサチモスといった、若者に人気のアーティストが続々とレコード盤を発売しているため。そしてレコードに触れて楽しみ、収集するというアナログならではの魅力に、若者たちが価値を見いだしているためだと考えられています。

 SMEの水野道訓社長は日本経済新聞に「ストリーミング(逐次再生)で聞いて気に入った曲を買う若者が多く、『好きな曲は所有したい』という欲求につながっている」とコメントを寄せています。

 大きくて厚みがあるレコードは、それだけでインパクト大。さらに音を再生するために一手間かけるという労力も、デジタルに慣れた今の若い世代には物珍しいのでしょう。手元に置くお気に入りの一枚に、愛着がわいてくるのかもしれませんね。

ブームで終わってしまうのか

 しかしこのレコードブームはいつまで続くのでしょうか。音楽ファンやレコードショップ店員の間では、「ブームによって古くて良いレコードの希少性が高まって値上がりし、手に入りにくくなる」「ブームが終わった途端、値崩れする可能性もある」などと、その行く末について懸念する声が聞かれます。中には「結局ファッションとして触れている人が多いのでは」(日本経済新聞)という指摘も。

 TwitterやインスタといったSNSで、手に入れたレコードやプレイヤーをアップする様子も見て取れることから、高価で稀少なレコードを見せたい、「いいね」がほしいという、自己承認欲求を満たすものと考えている人もいそうです。

 10万円以上するレコード機材は珍しくなく、レコードを聞く環境を整えるだけでも決して安いとはいえない買い物です。大枚をはたいて音楽を聴く余裕のある若者が、この先増えてくるのかは未知数。またレコードブームの火付け役だった海外ではビートルズなど往年のスターたちの名盤が人気を集め、日本でも店頭に並ぶのは洋楽の復刻版が中心です。新譜も発売されていますが、まだまだ一般への認知度に欠けていると言わざるをえないでしょう。

 ブームがブームに終わらないためには、レコードならではの魅力をより広く深く認知させていくこと、そして名曲の復刻だけに終わらず、レコードでしかできない“新しい楽しみ方”を提供することが、今後のシェア拡大のカギとなりそうです。

多様化の時代だからこそレコードを再評価できるようになってきている!?

 生産枚数だけでいえばCDに比べるとまだまだ及ばないものの、レコードの独特の音やジャケットは他にはない、味わい深いもの。音楽を楽しむ環境が多様化しているこの時代だからこそ、レコードを今一度再評価できるようになってきているのかもしれませんね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(1)セザンヌの個性と現代性

印象派の最長老として多くの画家に影響を与えたピサロ。その影響を多分に受けてきた画家の中でも最大の1人がセザンヌだが、その才覚は第1回の印象派展から発揮されていた。画面構成や現代性による解釈から、セザンヌ作品の特徴...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/10
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員
2

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

編集部ラジオ2025(14)なぜAI時代に文芸評論が甦るのか

どんどんと進む社会のAI化。この大激流のなかで、人間の仕事や暮らしの姿もどんどん変わっていっています。では、AI時代に「人間がやるべきこと」とはいったい、何なのでしょうか? さらにAIが、驚くほど便利に何でも教えてく...
収録日:2025/05/28
追加日:2025/07/10
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
3

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る

今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)ライフヒストリーからみた思春期

なぜ思春期に注目するのか。この十年来、10歳だった子どもたちのその後を10年追跡する「コホート研究」を行っている長谷川氏。離乳後の子どもが性成熟しておとなになるための準備期間にあたるこの時期が、ヒトという生物のライ...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/05
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
4

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(3)正岡子規と高浜虚子の「リアリズム」

正岡子規の死後、高浜虚子が回想で述べた師・子規との論争。そこに「リアリズムとは何か」のヒントが隠されていると江藤淳氏は言う。子規と虚子、それぞれの「リアル」とは何か、そしてどちらが本当の「リアル」なのか。近代小...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/09
與那覇潤
評論家
5

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

グリーンランドに米国の軍事拠点…北極圏の地政学的意味

地政学入門 ヨーロッパ編(10)グリーンランドと北極海

北極圏に位置する世界最大の島グリーンランド。ここはデンマークの領土なのだが、アメリカの軍事拠点でもあり、アメリカ、カナダとヨーロッパ、ロシアの間という地政学的にも重要な位置にある。また、気候変動によってその軍事...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/07/07
小原雅博
東京大学名誉教授