テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.29

マックに王将…なぜあの会社は復活できたのか?

 マックやマクドの愛称で親しまれる大手ファーストフード店の「日本マクドナルド」に、“餃子推し”の中華チェーン店といえばまず思い浮かぶ「餃子の王将」。どちらも知名度の高い社会インフラともいえるような飲食店ですが、さまざまなトラブルによって大きな売上げ減少に陥った過去があります。

 また、マックや王将以外にも、危機的営業状況に陥りながらも復活した会社もあれば、残念ながら倒産した会社や業績悪化から回復できない会社も多々あります。その違いはどこにあるのでしょうか。マックや王将の復活劇をたどりつつ、考えてみたいと思います。

「ゲンバ」改革から誕生した「グラン」シリーズ

 日本マクドナルドの危機の兆しは2011年の東日本大震災後の頃から始まり、2012年頃から売上げ減少が目立つようになってきたといいます。そして2014年の期限切れの鶏肉使用問題で赤字転落となり、さらに2015年の異物混入問題で大打撃を受け300億円を超える過去最悪の赤字を計上してしまいます。

 2013年から社長に就任していたサラ・カサノバ社長は「再建計画をやり切るのが私の責任」と述べ、「会社のカルチャー(文化)」の変革を決意します。具体的には職位に関係ない話し合いやワークショップを何度も開催し「マクドナルド スタッフ宣言」を決めるなど人材の採用と教育の強化を遂行、さらには47都道府県すべての訪問や店での聞き取り調査とそれらを受けた店舗改装やメニューの見直しなど、徹底した「ゲンバ」からの改革をおこないました。

 ほかにもツイッターを使った消費者参加型プロモーション、アンケートアプリ「KODO(コド)」の開発やクーポン配布、不採算店舗の大規模な閉鎖、「マックカフェ バイ バリスタ」といった特別店の展開など大胆な改革を行います。そして2017年、8年ぶりの新商品となる「グラン」シリーズを発表。発売5日で300万食を販売する大ヒット商品となり、日本マクドナルド復活の象徴となりました。

ニーズへの対応強化と「王将大学」の開設

 一方、餃子の王将を運営する王将フードサービスの危機は、東証1部上場企業に導いた“中興の祖”ともいわれる大東隆行四代目社長が、2013年に本社前で何者かに射殺されたことによって勃発します。また、2014年頃から宇都宮や浜松を代表するご当地餃子の流行や餃子をメインとする居酒屋の台頭など餃子市場に変化が興りましたが、この時期、餃子の王将はその変化に乗り遅れ、売上げ減少に陥ります。

 しかしその後は市場の変化をよく読み、「鶏の唐揚げ」「酢豚」「炒飯」といった定番メニューを小皿で“ジャストサイズメニュー”として100~300円台でも提供したり、アルコールメニューにも工夫を加えたりと、「ちょい飲み」できる中華居酒屋としての機能を強化し、居酒屋需要も集めていきます。

 また、2016年には創業の地である京都市内に女性向けのバルスタイルをイメージした新業態となる店舗「GYOZA OHSHO」をオープンしたり「にんにくゼロ餃子」を発売したりといったことでも一定の成果を得て、従来の客層とは違った新たな餃子シェアの獲得にも成功。徐々に売上げを回復していきます。

 そして業績回復の決め手となったのは、店舗社員の教育を担うために2017年に新設された店長・副店長のための研修場としての「王将大学」と、店長の調理レベル向上を目的とした「王将調理道場」の存在が大きいと考えられています。これらの社内教育部門において再研修や学び合いを行うことにより、店舗や人材の管理といったノウハウだけでなく、飲食業の基本となる「QSC(品質・サービス・清潔さ)」の徹底といった理念の共有と社内融和を高めつつ、切磋琢磨する社風の醸成に成功しているといいます。

会社経営は「合理と効率」だけでは足りない

 マックや王将だけでなく、日々さまざまな会社で、興隆や低迷、復活や倒産が起こっています。その中にはマックや王将のような、多くの人が知っている大企業も少なくありません。

 経営学者で慶應義塾大学商学部教授の菊澤研宗氏は『組織の不条理』において、「組織の本質は限定合理性である」と説き、合理的に行動することによってかえって組織が非効率や不正な事態に導かれて淘汰されていく「不条理な事例(合理的で非効率で非倫理的事例)」として、北海道拓殖銀行と大沢商会の倒産や山一証券の自主廃業などを挙げつつ、ひるがえって「条理な事例(合理的で効率的で倫理的事例)」での失敗から回復した例として、味の素の創業者一族の所有と経営の分離政策、ソニーのカンパニー制でのコスト節約の仕組みなどを取り上げています。

 営利を目的とする会社である以上、合理性や効率性を高めることは当然ですが、それだけを求めすぎると、「会社内」の合理や効率がなによりも優先されることによって逆に不合理や非効率に陥ったり、それ以上に不正を行ってしまったり危機を見逃したりすることにもなりかねません。

 そうならないためにも、広い視野を持って時代の動向をよく見極め、現場の声を傾聴しつつ人材教育を怠らないなど、時間や手間をかけた取り組みも必要になってきます。マックや王将など低迷や失敗から工夫と努力で復活した会社には、会社という組織にとっても、ビジネスパーソンという個人にとっても学べるべき点が多々あるのではないでしょうか。

<参考文献>
・『組織の不条理』(菊澤研宗著、中公文庫)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは

“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは

空海と詩(4)詩で読む『秘蔵宝鑰』

“悠々たり悠々たり”にはじまる空海『秘蔵宝鑰』序文の詩文。まことにリズミカルな連呼で、たたみかけていく文章である。このリフレインで彼岸へ連れ去られそうな魂は、選べる道の多様さと迷える世界での認識の誤りに出会い、“死...
収録日:2024/08/26
追加日:2024/11/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
2

国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験

国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験

独立と在野を支える中間団体(6)慶應義塾大学「三田会」の起源

中間集団として象徴的な存在である慶應義塾大学「三田会」について考える今回。三田会は単に同窓会組織として存在しているわけではなく、「公」に頼れない場合に重要な役割を果たすものだった。その三田会の起源について解説す...
収録日:2024/06/08
追加日:2024/11/22
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授
3

日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

日本文化を学び直す(1)忘れてはいけない縄文文化

大転換期の真っ只中にいるわれわれにとって、日本の特性を強みとして生かしていくために忘れてはいけないことが二つある。一つは日本が森林山岳海洋島国国家であるというその地理的特性。もう一つは、日本文化の根源としての縄...
収録日:2020/02/05
追加日:2020/09/16
田口佳史
東洋思想研究家
4

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事
5

謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像

謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像

日本語と英語で味わう『源氏物語』(1)紫式部の人物像と女房文学

日本を代表する古典文学『源氏物語』と、その著者である紫式部は、NHKの大河ドラマ『光る君へ』の放映をきっかけに注目が集まっている。紫式部の名前は誰もが知っているが、実はその半生や人となりには謎が多い。いったいどのよ...
収録日:2024/02/18
追加日:2024/10/14