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DATE/ 2018.10.14

日本の「働きがいのある会社」ランキング

 労働をめぐる環境は近年著しく変化しています。「働き方改革」が進み、私たちはどのように働けばより豊かに暮らせるのか、ということが問われていると言えるでしょう。ここで参考になるかもしれないデータに「働きがいのある会社」ランキングがあります。これは世界約50カ国で活動している専門機関Great Place to Work Institute Japan(以下GPTW)が発表しています。日本での発表は2007年から始まり、今回で12回目です。この発表を元に、どのような企業がランクインしているのか見ながら、どのように働くことが「働きがい」につながるのかといったことを考えてみます。

「働きがいのある会社」企業規模別トップ10

 調査は大規模、中規模、小規模の3つに分けて発表されています。ここではそれぞれのトップ5を見てみましょう。大規模部門(従業員1000名以上)でのトップ5は以下のとおりです。

1位:シスコシステムズ
2位:Plan・Do・See
3位:ディスコ
4位:セールスフォース・ドットコム
5位:アメリカン・エキスプレス

 一般にはあまり馴染みのない会社もあるかもしれません。1位のシスコシステムズはIT通信機器のインフラで大きなシェアを持っている会社です。2位のPlan・Do・Seeはホテルの企画やウェディングをプロデュースする会社、3位のディスコは、半導体の材料となる素材を加工する装置(砥石など)を開発している会社です。

 中規模部門(従業員100-999名)でのトップ5は以下の通り。

1位:コンカー
2位:バリューマネジメント
3位:ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ
4位:サイボウズ
5位:CKサンエツ

 1位のコンカーは、経費管理クラウドシステムを世界的に展開する会社。2位のバリューマネジメントは結婚式や古民家再生事業、商業施設の再生コンサルティングなどを行い、3位のケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズは企業の改革をマネジメントする会社です。

 小規模部門(従業員25-99名)でのトップ5は以下の通り。

1位:アクロクエストテクノロジー
2位:マルケト
3位:gCストーリー
4位:プログレスグループ
5位:ソニックガーデン

 1位のアクロクエストテクノロジーはシステムコンサルティング会社ですが、飲食事業としてオーガニックカフェを運営している点はやや面白いポイントです。

 この調査は、自らエントリーを行った企業を対象として評価が行われるもので、日本のランキングでは438社が参加しています。また評価は「従業員へのアンケート調査」「会社へのアンケート」を元にして作成されています。自らエントリーを行った企業が対象ということなので、もともと「うちは社員の働きがいを意識している」と強く意識して名乗りを挙げた企業の一覧と考えていいでしょう。もちろん、ここで上位にランクインすれば、企業としての魅力が高まります。企業としても働く側としても共に意義のある調査です。

働きがいのある会社とはどういう会社か

 調査を発表したGPTWの分析によると、労働環境の整備といった「働きやすさ」のある職場よりも、経営・管理者層と信頼関係があり、仕事の誇りや連帯感を感じることができる「やりがい」のある職場の方が業績は向上している、とのことです。日本で推進されている「働き方改革」の中心テーマは、どちらかといえば「働きやすさ」であると言えるでしょう。これに「やりがい」をプラスすることで、「働きやすく」また「働きがい」もある、より理想的な労働環境が実現できると言えるかもしれません。

 こういった点に関して、同調査4年連続で中規模部門のトップを維持している株式会社コンカーの代表取締役社長、三村真宗氏は著書『最高の働きがいの創り方』で、興味深い発想を記しています。「上司部下関係なく言い合える風土が求心力を生む」「社長が手を動かして会社の課題を整理することが、社員へのメッセージになる」といったものです。端的に言えば、「上司と部下の関係を縦の役割分担ではなく、連帯して共に目的を共有する仲間といった意識で捉え、積極的にコミュニケーションを取ること」を推奨していると言っていいでしょう。

 また、同氏はこれを実現するためのオフィスレイアウトからイベントづくりの提案など、さまざまな取組を行っていることが分かります。また、ランチ会も面白いポイントかも知れません。たとえば、「オフィスと違った場所でいいフィードバックを生み出すことになる、上司との「コミュニケーションランチ」、直属の上司に言いづらいことも話しやすくなる、他部署の上司との「タコランチ」、新任マネージャーの悩みをフォローする「マメランチ」が挙げられています。ネーミングも発想もなかなか斬新です。また、飲み会ではなくランチという点も現代的といえるかもしれません。

 一般的に、会社の規模が大きくなれば、そこで働く個人の役割は細分化され、組織の中での「働きがい」は得られにくくなるといえるかもしれません。こういった状況においては、上司が部下を細かく見て、随時コミュニケーションを取りながら組織の連帯を保つこと、がより重要だと言えるのではないでしょうか。またこの場合のコミュニケーションとは、従来の飲み会によらない、ちょっとした部下の言葉に耳を傾けるといったような、より柔軟なコミュニケーション力であることも意識しておく必要はあるでしょう。

<参考文献・参考サイト>
・『最高の働きがいの創り方』(三村真宗著、技術評論社)
・Great Place To Work: 2018年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングを発表!
https://hatarakigai.info/news/2018/0209_72.html
・Great Place To Work:「働き方改革」で業績は向上するのか?~“働きやすさ”、“やりがい”と業績の関係~
https://hatarakigai.info/report/2018/0712.html
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授