社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.11.24

総合1位はどこ?日本の「都市力」ランキング

 地方都市では、この先の人口減少や産業の衰退といったことが懸念されています。東京はあらゆる情報や人が集まっているので、もちろん企業にとってはメリットの大きいと言えるでしょう。しかし、もう少し違った視点から見ると、実は地方にも有利な点はあるのではないでしょうか。

 こういった地域の魅力を再評価する意味でも役に立つデータがあります。日本の各都市の特性に関する調査「日本の都市特性評価」です。発表しているのは、森ビルのシンクタンクである森記念財団都市戦略研究所。東京を除く主要72都市と東京23区を対象に経済や文化など6分野のスコアを算出しています。ここでは、主要72都市に関して、ランキングを見てみましょう。

ランキングトップ10、総合1位は京都市

 調査は政令指定都市と県庁所在地、各都道府県で人口規模が上位の合計72都市を対象とし、83指標の定量データと、居住者へのアンケートが材料となっています。83の指標から「経済・ビジネス」「研究・開発」「文化・交流」「生活・居住」「環境」「交通・アクセス」という6分野のスコアを合算して順位をだしています。「日本の都市特性評価」ランキング、総合トップ10は以下の通り。

1位 京都市
2位 福岡市
3位 大阪市
4位 名古屋市
5位 横浜市
6位 神戸市
7位 札幌市
8位 仙台市
9位 つくば市
10位 浜松市

文化とアカデミズムの京都

 トップ3に関して要因を詳しく観てみましょう。総合1位の京都市は、「文化・交流」の分野で1位、「研究・開発」2位、「交通・アクセス」8位、「経済・ビジネス」9位と高い評価を得ています。反対に「生活・居住」は33位とやや標準的、「環境」は52位と若干他の地域より低い数値です。なんといっても、文化財指定件数の多さが京都市の特徴です。また、こういった「観光ハード資源」を生かしたイベントや名物料理数といった「観光ソフト資源」でも強みをみせている様子です。

バランスの福岡

 総合2位の福岡市は「経済・ビジネス」「交通・アクセス」「文化・交流」で3位、「研究・開発」5位となっています。一方で「生活・居住」は37位で一般的水準、「環境」は57位でやや低い数値です。「経済・ビジネス」分野の「ビジネスの活力」が極めて高くなっています。これは新設事業所割合、特区制度認定地域数の評価が高いことを表しています。他の指標も含めて、福岡市はかなり都市力の高いレベルでバランスが取れている都市と言えるでしょう。

ビジネスと交通の大阪

 総合3位の大阪市は「経済・ビジネス」「交通・アクセス」1位、「文化・交流」2位、「研究・開発」7位となっています。地域内総支出がトップであるほか「雇用・人材」「ビジネス環境」「ビジネスの活力」「人材の多様性」で高評価となっています。ただし、「環境」は72位、「生活・居住」は71位と低いです。自然環境の低さや居住しにくさといった点は際立っていますが、このあたりは他の都市も含めて、都市化の宿命と言えるかも知れません。

 他にも、「日本の年評価2018」にはさまざまな都市のデータが分析されています。レーダーチャートを見ると、その都市の特化した部分やバランスを総合的に確認することができます。また、クラスター分類を見ると、傾向の似ている都市のまとまりを知ることもできます。

地方の都市部以外はどうなのか

 ここまでは主に地方都市の特性を見てきました。上位にある都市はどこも、「交通・アクセス」で上位にある点は共通しているようです。都市部であれば、都市内、都市外を含めて、交通の利便性は高いと言えるでしょう。高速道路や新幹線に乗りさえすれば、その地域までの移動には困りません。この中心部と地方の都市部を繋ぐ大動脈がある限り、地方はその特色を維持することが出来れば、うまく発展する可能性もあります。

 ここで問題になるのは、都市部を繋ぐ大動脈から外れたエリアではないでしょうか。その一つとして中山間地域と呼ばれる山間地およびその周辺の地域が挙げられます。こういった地域は、全国の耕地面積の4割を占めています。

自動運転サービスが地方を救うか

 この点に関して、国土交通省は「地域公共交通活性化再生法」に基づき、地域公共交通ネットワークの再編を支援しています。たとえば、バス路線の再編やオンデマンド型タクシーなどのサービスの導入、LRT(次世代型路面電車システム)、バス高速輸送システム(BRT)の整備といったことが進められています。

 また、今後は自動運転サービスを取り入れようとしています。2017年度に全国的に行われた自動運転サービスの実証実験では、道の駅等を拠点として、貨客混載による農作物や加工品等の配送、自動運転車で集荷した農作物を、高速バスと連携して都内に配送するといったことが行われました。2018年度はビジネスモデルの構築のため、長期間の実験を中心に実施するとのことです。

 自動運転サービスには近未来感があります。考えてみれば未来を描く小説や映画の多くは都市部を描いてきたように思います。ですが今後、こういった新しい技術が、より広範なエリアで活躍することになれば、未来はわたしたちが想像しているものとは、少し違う場所になるかもしれません。

<参考サイト>
・日本経済新聞:日本の「都市力」、1位は京都市 森ビル系が調査結果
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36067250T01C18A0X12000/
・森記念財団都市戦略研究所:日本の都市特性評価 2018
http://mori-m-foundation.or.jp/ius/jpc/index.shtml
・平成29年度国土交通白書2018:第4節 動き方に関する取組み 2 地方における動きの確保に関する取組み
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h29/hakusho/h30/pdf/np103400.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
2

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11
3

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
4

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
5

誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム

誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム

認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門

人間の営みを支えているのは高度な認知機能だが、複雑な社会行動を司るその認知機能は同時に多くの偏り(バイアス)を含んでいる。誰もが陥るその「認知バイアス」には、いったいどのような危うさ、あるいは可能性が秘められて...
収録日:2022/05/26
追加日:2022/10/11
鈴木宏昭
元青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授 博士(教育学)