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DATE/ 2019.02.19

薄毛治療の最先端!新しいその治療方法とは?

 ここ数年、発毛剤市場には新たな商品が投入され、賑わいを見せています。それだけ薄毛に悩む人が多いということです。しかし、どの発毛剤でも効果がない、という人も中にはいるのではないでしょうか。こういったことから、カツラや植毛といった方法で対応してきた人も多いかも知れません。つまり、薄毛はどの方法によっても、根本的には解決出来ない問題でした。ここでそういった人にも朗報です。再生医療の技術を応用して、これまでとは全く異なる新しい脱毛症の治療方法の研究が進んでいます。

現在の治療の現状と問題

 現在、脱毛症や薄毛の治療では塗布剤が主です。また男性型脱毛症(AGA)では外用薬と内服薬を用いてきましたが、いずれも持続的に投与しなければ頭髪を維持できません。また、男性型脱毛症では、毛がなくなってしまった部位に関しては効果がありません。つまり、発毛剤は薄毛の進行をとどめる薬です。

 これに対して、本人の後頭部毛包(毛を作る皮膚の器官)を脱毛症部位へ移植する「自家単毛包植毛術」も自由診療では行われていますが、この手術の欠点は、採取する毛包の数にも限界があり、毛髪の総数は変わらないという点です。また、この手術では後頭部の皮膚を移植するため、傷が残るという問題もあります。

毛包器官再生医療

 こういった課題から、新たな医療技術の進歩に期待が寄せられてきました。ここにきて再生医療の分野がその期待に応えようとしています。2018年にオーガンテクノロジーズと理化学研究所が、『毛包器官再生医療に向けた非臨床試験開始について』という資料を発表しました。資料によると技術のあらましは以下の通り。

 2007年、理研生命機能科学研究センター器官誘導研究チームが、器官のもととなる器官原器を再生する細胞操作技術を開発。この技術を用いて生体内で歯や毛包、唾液腺、涙腺の機能的な再生が可能であることを実証し、この後、マウスを用いて毛幹(毛)を再生できることを実証しています。この技術では持続的な毛周期を維持し、機能的な器官が再生されています。つまり、毛包と呼ばれる毛髪を作り出す器官を自己の細胞を用いて作り出し、それを移植して実際に毛を維持する技術に成功した、ということです。

実用化は2020年以降か

 また、この技術を今後確立するには「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」に従った手続きを踏み、動物を用いた安全性を試験する「非臨床試験」を実施したのち、最終的に提供計画を厚生労働大臣に提出する必要があるとのこと。先述の資料では、こういった流れを経て、2018年7月に非臨床試験用の製造を開始し、その後、2018年の内に動物を用いた非臨床安全性試験を実施するとされています。2019年初頭の現在は、最新の情報が待たれている状況です。

 また、2016年の7月に発表されていた同研究に関する資料(京セラ、理化学研究所、オーガンテクノロジーズの3者の共同研究)によると、2020年以降の実用化を目指すとされています。

どういった脱毛に対して効果があるのか

 この毛包再生医療では、AGA(男性型脱毛症)患者を対象とする治療から開始するとのことです。その後、女性型脱毛症、瘢痕性脱毛症や先天性脱毛症の患者を対象とした開発も進める予定とのこと。この技術では、後頭部からサンプルを採取し、そこから上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を培養し、再生毛包原基を作り出すとのこと。移植した再生毛包原基から生えてきた髪は周囲の髪の流れに沿って生えるので、一旦接着すれば通常の髪と変わりません。

 ただ、2016年の発表時には、培養技術や機械化や大量製造技術といったところは開発が必要な部分も多々あるとのことでした。現状ではどこまで研究開発が進んでいるのか気になるところです。まだまだいくつか越えなければならない山はあるかもしれないですが、研究者やエンジニアの方々の熱意には、大いに期待していいような気がしています。

<参考サイト>
・毛包器官再生医療に向けた非臨床試験開始について
http://www.organ-technol.co.jp/uploads/2018/06/c799cae95fa4e4f0f6b0b27ee37959ea.pdf
・脱毛症治療の非臨床試験を開始 - 毛包器官の再生医療めざす
https://news.mynavi.jp/article/20180606-642036/
・京セラと理研、毛包器官の再生による脱毛症治療に向けた共同研究を開始
https://news.mynavi.jp/article/20160713-a035/
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東京大学名誉教授
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授