社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.03.15

一番お金を使っているのは何オタク?

 フェスで、イベントで、劇場で。……自分の“推し”のためならお金を躊躇なくつぎ込むオタクたち。実際のところ、どのジャンルのオタクが一番お金を使っているのでしょうか。彼らが1年で使う金額とは? 「クールジャパン」を支える彼らの実態に迫ります。

年間消費金額が最も多いのは「アイドル」オタクの103,543円

 株式会社矢野経済研究所は「オタク」に関する消費者アンケート調査を実施しました。調査では分野別のオタクの人数と一人当たりの年間消費金額を推計し、彼らが与える経済的影響について考察しています。

 その結果、一人当たりの年間消費金額では最も多かったジャンルは「アイドル」のオタクで103,543円となり、次に「メイド・コスプレ関連サービス」の68,114円、「鉄道模型」の63,854円と続いています。「アイドル」オタクの消費金額は3年連続でトップを占めたそうです。

意外と少ない? 使っている金額のギャップに戸惑うネットユーザー

 この調査結果を受けて、オタクと思われるネットユーザーの反応は

「もっと多いかと思った」
「1年間? 1ヶ月の間違いだろ」
「コミケ(※1)1回の軍資金が10万円だわ」
「自分の給料すべてが推しへのお布施。そのために働いてるし、生きてる」
※1 日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット」の略。東京ビッグサイトで夏と冬、年2回開催される。

といったように、意外と少ないといった反応が目立ちます。中には生活を切り詰めてもお金をつぎこむ強者っぷりを披露する人も。

 矢野経済研究所によると、アイドルオタクの場合、コンサートやイベントの参加費や会員費、グッズ展開など、アイドル業界は他の分野に比べてお金がかかる仕組みになっていることや、のめり込みの度合いが強い人が多いからではないかと推察しています。

 また、世帯年収に関係なくオタク活動に充てる費用が高いので、それだけアイドルに対して人生を賭ける人が少なからずいることを証左しているとしています。

 筆者の周りのアニメ・マンガオタクたちも
「年間10万円って少なく感じた」
「ブルーレイ、ライブ、イベント、CD、同人誌へつぎこむ金額を考えたら10万なんてあっというまでしょ」
と、普段オタクとして体感している消費額よりも少ない、という反応がほとんどでした。

そもそも「オタク」のボーダーラインは?

 この調査での「オタク」とは、自分をオタクだと思っている、または人からオタクだと言われたことがある人をオタクと定義しています。矢野経済研究所では、アイドルが1位になった理由として「アイドルファンの裾野が広がった=ライトユーザーが増えたことが要因ではないか」と推察しています。

 一昔前は“一握りのヘビーユーザー”“特殊で近づきがたい日陰の存在”という面が強かったオタクたち。しかし彼らの豊富な知識や高い行動力がメディアで拡散されるに伴い、市場が拡大し続けたことに加え、日本のサブカルチャーが「クールジャパン」として世界的人気となったことで、オタクたちは“サブカルチャー市場の担い手”として認知されるようになりました。

 そのため、ライトユーザーでも「オタク」と名乗ることに抵抗感を感じなくなり、ライトユーザー層の増加につながったと考えられます。

 のめり込み具合、かける金額、ジャンルを追い続けている年数など、立場によってオタクの定義はさまざまですが、月に数回同人イベントに足を運んでいる筆者の友人からは

 「10万円が平均金額ということは、あまり遠征(※2)しないでCDだけ買って満足しているようなファッションオタ(※3)の分も含まれているのでは」
と、少々辛辣な意見が。金額だけで見ると、本気度の高い「ガチ勢」のオタクには、ライトユーザー層のお金の使い方はまだまだ甘い、と感じられるようです。

 また、ある旧作タイトルのアニメオタクの友人は
「うちのジャンルの人たちは公式グッズが出たら全部買うと言っている人が多い。そうしないと続編が出ないから。でも公式がグッズを出してくれるだけ、まだありがたいほう」
と、ファンとしてお金を使う理由(そして苦労)を語っています。

一部の「ガチ勢」が市場を支える

 イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱する「パレートの法則」によると「全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出している(Wikipediaより)」とあり、この法則に基づけば、一部の「ガチ勢」のオタクが与える経済的インパクトは無視できないといえるでしょう。

 オタクを焦点にあてたマーケットは年々拡大し、活性化しています。ヘビーであれライトであれ、推しのために貢ぐオタクたちの心をいかに掴むかが、停滞した日本経済の復活のカギを握る……のかもしれませんね。

※2 イベント会場に行くために遠出すること。概ね泊まりがけの距離を指すことが多い。
※3 「オタクを着飾った(気取った)オタク」のような意味合いで、しばしばヘビーユーザーがライトユーザー層を揶揄する時に使われる。

<参考サイト>
・「オタク」に関する消費者アンケート調査を実施(2018年)(株式会社矢野研究所)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2047
・お金を最も使うのは「アイドルオタク」…世界のマーケットが狙える“オタク文化”は?(FNNPRIME)
https://www.fnn.jp/posts/00421830HDK
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
3

大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた

大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた

内側から見たアメリカと日本(5)ヒラリーの無念と日米の半導体問題

ヒラリー・クリントン氏の全盛期は、当時夫のクリントン氏が大統領だった2000年代だったという島田氏。当時、ダボス会議での彼女の発言が全米の喝采を浴びたそうだが、およそ10年後、大統領選挙でトランプ氏と対峙した際、彼女...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/24
4

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授