テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.05.27

VRが流行らない3つの理由

 「VR元年」と呼ばれた2016年から早くも7年目を迎えました。毎年、「今年こそは」と言われながらもなかなか普及にはいたらないVR。なぜ、VRはなかなか普及しないのか。その理由を考えてみたいと思います。

ゴーグルという物理的な障壁

 まず一つ目に考えられるのは「ゴーグル」をつける手間です。そもそも、VR対応の据え置きゲームやPC自体が、スマホなどの携帯機と比べ、起動が面倒な仕様になっています。それに加えて、ゴーグルも着用しなければいけないとなると、始めるだけでも億劫になります。

 もちろん、据え置き機だけでなく、今やスマホでもVRは楽しむことができるようになりました。VRを使ったイベントやサービスも増え始めています。ただし、ゴーグルは必要です。ゴーグルという物理的な障壁をいかに解決していくかが普及の鍵になることは間違いないでしょう。

VR酔いで吐き気や頭痛も

 二つ目は、「VR酔い」です。VR酔いの原因ははっきりしていませんが、「体験者の動き」と「見ている映像の動き」のズレから生じると言われています。吐き気や頭痛など、乗り物酔いに似た症状があらわれます。個人差が大きく、まったくVR酔いをしない人もいれば、プレイ続行が不可能になるほど重い症状を引き起こす人もいます。

 VR酔いもゴーグル同様にVRの普及を大きく妨げています。ただし、VR酔い対策の研究は順調に進んでおり、全体としては軽減に向かっているようです。Otolith Labsという医療系企業が開発したVR酔いを軽減するウェアラブルデバイス「OtoTech」は、非常に優秀で、米軍も注目していると言われています。

プレイヤーも周囲の人も孤独になる

 三つ目は、VRを体験しているプレイヤーと、周りでその様子を見ている人が隔絶しているという問題です。テレビにしても、ゲームにしても、映像体験をその場で同時に共有することができます。しかし、VRの場合、同じ場所にいるにも関わらず、VRの体験者もその周囲の人もともに孤独な状態に置かれることになるのです。

 こちらの問題も「VR酔い」と同じく、解決する方向に向かっているのかもしれません。外部からVRの中の映像を見ることができる仕組みが開発されています。「MoguraVR」の記事によると、2018年、ソニーは、スマホのような端末をかざすことでVRの中の様子を覗き込むことができるシステムの特許を申請したとのこと。こうしたシステムを開発しているのはソニーだけではありません。

「Oculus Quest」の登場

 ここまでVRの3つの根本的な問題点を取り上げてきましたが、別の角度からの指摘もあります。ハフポストは「2019年こそ本当の「VR元年」になると言える2つの理由 4度目の正直になる可能性がある。」という記事を報じています。「Oculus Quest」の発売によって「視界だけではなく、距離感も体感できるようになる」。さらに「手軽な価格により、一気に普及する可能性がある」という内容です。

 たしかに「Oculus Quest」は、持ち運び可能なサイズでありながら、PCなど外部接続が不要で単体で起動できることからかなり革新的な商品と言えます。第一に挙げたゴーグルの手間もある程度は解消してくれるでしょう。3年たった現在、Oculus Quest2が既に発売しており、3リリースにも期待が高まっています。

 VRの3つの課題として取り上げた「ゴーグル」「VR酔い」「孤独感」への取り組みは、最近になってやっと効果がではじめたところです。そういう意味では、元号令和とともにやっと「VR元年」を迎えたと言ってもいいのかもしれません。ただし、普及という段階にいたるまでは、まだまだ時間がかかるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・振動だけでVR酔いを緩和!ウェアラブルデバイス「OtoTech」が登場!
https://vrinside.jp/news/post-151219/
・ソニー、VR内を覗き込むセカンドスクリーンの特許を申請
https://www.moguravr.com/sony-vr-second-screen-patent/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

道元『辨道話』の教え「修行こそわが仏門」とは

道元『辨道話』の教え「修行こそわが仏門」とは

石田梅岩の心学に学ぶ(5)根本としての仏教と道元の教え

石田梅岩の思想の根本をさかのぼると、最澄の説く「本来本法性 天然自性身」、またその言葉から修行への疑問を呈した道元に行き着く。最澄は「人間は本来仏性を持つ、生まれながらに悟った身だ」と言う。仏教とはそうした存在...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/05/06
田口佳史
東洋思想研究家
2

玉川上水の歴史…約8カ月で完成?玉川兄弟の功績とは

玉川上水の歴史…約8カ月で完成?玉川兄弟の功績とは

『江戸名所図会』で歩く東京~上水と十二社(1)「水の都」江戸の上水道

都市を繁栄させるためには水道の整備が不可欠だが、江戸は世界でも有数の水道網が張り巡らされた都市だった。『江戸名所図会』に描かれた玉川上水を中心に、「水の都」としての一面を持った江戸の上水道について深掘りしていく...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/05/05
堀口茉純
歴史作家
3

生成AIの規模拡大で急増する世界的エネルギー事情

生成AIの規模拡大で急増する世界的エネルギー事情

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(4)エネルギーにおける「神経と血管」

AI技術の急速な発展と需要の拡大で、これからさらに世界的に電力消費が増えていくことが予想される。デジタルインフラを支える電力がますます必要とされる中で、カーボンニュートラルなエネルギー供給をいかにして安定的に行う...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/05/04
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学入門 歴史と理論編(1)地政学とは何か

国際政治を地理の観点からひも解く「地政学」という学問。近年、耳にすることも多くなった分野だが、どのような手法や意義を持った学問であるかを学ぶ機会は少ない。その基礎から学ぶことのできる今回のシリーズ。まず第1話では...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/04/30
小原雅博
東京大学名誉教授
5

お金より大事なもの…Yコンビネーターとの幸運な出会い

お金より大事なもの…Yコンビネーターとの幸運な出会い

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(3)Yコンビネーターとは何か

AI時代の寵児となったサム・アルトマン。その起業家人生を語る上で、Yコンビネーターとの出会いは欠かせない。前例の少ない先駆的な分野に打って出る起業家にとって、ノウハウやアドバイスを得られる場は貴重だが、サム・アルト...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/05/03
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト